きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 菜々美の手のひらには、一枚の記憶のページが戻ってきていた。
 やぶれていたその端が、今はしっかりつながり、一つの言葉を語っていた。

 「わたしは、物語をつくる人になりたいです」

 ページはやわらかく光り、菜々美の胸の中にも、それと同じ光が灯っていくのがわかった。

 「夢を忘れていたんじゃない。見えなくなっていただけだったんだ」

 そうつぶやいたとき、夢界の空が再び明るくなり、足元の道がふたたび輝きはじめた。

 「よかった……」

 有美が、小さな声でほっと息をもらした。

 「でも、夢の心臓はまだ弱ってる。このままじゃ……」

 直輝の言葉に、案内役の声が再び響いた。

 「心臓を回復させるには、“夢の記憶のピース”をそろえなくてはなりません。
 これは、仲間と心を合わせなければできない試練です」

 すると、空中に五枚の“記憶カード”が浮かび上がった。
 それぞれに、短い文章と選択肢が記されている。

 カード1
 あなたが最初に夢を持ったきっかけは?
 A 読んだ本にあこがれて
 B 友だちに言われたひとこと
 C 家族との約束

 カード2
 夢をあきらめそうになったときの気持ちは?
 A 自分が小さく思えた
 B まわりの目がこわかった
 C どこかであきらめる理由を探していた

 カード3
 今のあなたが夢を持ちつづけられる理由は?
 A ひとりじゃないと気づけたから
 B 失敗しても自分を信じたいから
 C 夢があると毎日が楽しくなるから

 五人は順番にカードを読み、自分の答えを選んでいった。

 裕樹は、はっきりと答えた。

 「カード1はA。小さいころ読んだ冒険の本が、ずっと忘れられなかった」

 由香里は、静かにうなずいてから言った。

 「カード2はB。私は気にしないふりをしてたけど、本当はすごく怖かったの。
 でも、ここに来て、正直な気持ちを言えるようになった」

 海音は、カード3に手をのばした。

 「C。夢があると、毎日がちがって見える。小さなことでも、意味があるって思える」

 答えが重なるたびに、空中のカードが光を放ち、五色の帯が空をつらぬいた。
 それはまるで、ばらばらだった心がひとつにつながっていくようだった。

 「菜々美、最後のカードは……?」

 「カード1はA。わたしも、物語に出会ったとき、胸がどきどきしたの。
 カード2はA。自分なんかって思ってた。
 でも、カード3はA。いまは、わたし、ひとりじゃないって思えるから」

 その答えとともに、記憶カードがそろい、光の粒が天へと昇っていく。

 それは、夢界の中心へと吸いこまれていった。

 そのとき――

 夢の心臓が、ふたたび脈打ち始めた。

 かすかに響いていた鼓動が、少しずつ強く、あたたかく広がっていく。

 「やった……!」

 「夢界が……生き返ってる!」

 菜々美たち五人は、しっかりと手をとり合った。
 それぞれの夢も、思いも、つながった証だった。

 でも、そのとき、空にひとすじの黒い筋が残っていた。

 「まだ何かが……いる」

 裕樹が、くもる空を見あげてつぶやいた。

 空の奥深く、何かがゆっくりと近づいている。
 それは「夢界の秩序を乱す仮面の存在」だった。