きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 静かに開いた扉の向こうは、やわらかい光で満たされていた。
 まるで夢の奥にある、まだ誰も知らない場所。
 その中央には、一枚の透明な台があり、そこに小さな“夢のかけら”が浮かんでいた。

 菜々美たちがゆっくりと歩み寄ると、その夢のかけらがふわりと浮かびあがり、ひとつの映像を映し出した。

 それは、菜々美がまだ引っ越しをする前――
 小さな発表会の舞台袖で、友だちに自分の夢を語っている姿だった。

 「わたしね、大きくなったら物語をつくる人になりたいの」

 画面の中の友だちは、ほんの少し笑っていた。

 「えっ? そんなの本気で言ってるの?」

 その言葉に、菜々美は肩をすぼめて、笑ってごまかしていた。
 でも、その目には、言葉にしきれないさみしさがにじんでいた。

 「これは……」

 菜々美のつぶやきに、由香里がそっと言葉を添えた。

 「それでもあなたは、夢を見つづけてきたんだよね。すごいと思うよ」

 「わたし、正直言うと……あの言葉がずっと心に引っかかってた。
 夢って口に出しちゃいけないものなのかなって思ったこともある」

 「でも今は違うのね?」

 菜々美は、しっかりとうなずいた。

 「うん。だれかに何かを言われても、自分の気持ちをなくさないって決めたから。
 わたしは、自分の言葉で物語を描きたい。みんなと出会って、そう思えたの」

 そのとき、夢のかけらがゆっくりと砕け、まばゆい光が部屋中を包んだ。

 光の中から、五人の足元にそれぞれ“色の違う石”が現れた。

 それは、菜々美にはあたたかいピンクの石。
 由香里には、やわらかな緑の石。
 裕樹、直輝、有美の足元にも、それぞれちがう光を放つ石が浮かんでいた。

 「これは……」

 すると、上空からまた声が響いた。

 「これは“信頼の印”。絆をむすぶ者に与えられる石。
 この石が導く先に、夢界の真の扉がある」

 五人は石を手にとった。
 それぞれの石が、手のひらでぬくもりを放つ。

 そのとき、光が渦をまいて空間が再びゆれた。
 映し出されたのは、夢界の中心にあるとされる“夢の心臓”――
 だけど、その光が、不安定に揺れていた。

 「夢界の心臓が……!」

 直輝が思わず声を上げる。

 「光がにごってる……どうして?」

 その答えを知っているように、有美がぽつりとつぶやいた。

 「たぶん、“現実の不安”が入りこんでるのかも。
 夢を信じられなくなる気持ちって、すごく強いから……」

 その言葉に、菜々美は胸をおさえた。
 思い当たることが、たしかにあった。

 「まだ、わたしたちが向き合わなくちゃいけないことがあるんだね」

 その瞬間、五人の石が強く光り、空中に道がのびていった。

 それは、夢界の奥へと続く“記憶の回廊”。

 そこには、それぞれの“心に眠る記憶”が待っている。