きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 夢界の空に、虹色の道がうっすらと伸びていた。
 四つのカギがそろい、その先へとつながる「聖域」への道が開かれたのだ。

 なのに、菜々美の心はすっきりしなかった。

 「……由香里、怒ってたよね」

 図書室に一度戻ったあとも、菜々美の頭の中はぐるぐると同じことを考えていた。

 塔での試練のあと、由香里は何も言わずに姿を消した。
 言葉を交わす時間がなかった。それが、心に小さなとげのように残っている。

 (あのとき、私が先に倒れてしまったせい? でも……由香里は、最後まで残ってくれていた)

 思い返すほど、何も言えなかった自分が悔しくなった。

 そんなとき、夢の本がまた光を放った。

 「信頼を試す扉が、開かれます」

 その文字とともに、菜々美はふたたび夢界へと引きこまれていった。

 ***

 目の前に広がったのは、きらびやかなドーム状の空間だった。
 空は高く、まわりには光の柱が立ちならび、中央には大きな円形の台座がある。

 そこには、裕樹、直輝、有美、そして由香里がそろっていた。

 「みんな……!」

 声をかけると、由香里が一瞬だけ顔を上げ、すぐにそらした。

 「よかった、無事で。ほんとうに」

 裕樹が歩み寄り、菜々美の肩に手を置く。
 その手があたたかくて、少しだけ心が落ち着いた。

 すると、空から声が降ってきた。

 「これは“心の調律”の場。信じる心が、道を照らす」

 光の台座が動きだし、五人は自然と円の内側に誘われた。

 「信頼とは、なにをもって築かれるか。試練に答えることで、真の扉が開かれる」

 その声に導かれるように、空中に文字が浮かびあがる。

 問い一
 あなたの大切な友だちが、約束を忘れてしまった。どうする?

 A すぐに怒る
 B さびしかったと伝える
 C なにも言わずに距離をおく

 台座の中央が光り、五つの石がそれぞれの前に浮かんだ。
 それぞれが選んだ答えに応じて、台座の色が変化する。

 菜々美は、まっすぐに答えを口にした。

 「B。わたしは、ちゃんと気持ちを伝えたい。怒りたくないけど、黙ってたら、もっと遠くなる気がするから」

 由香里は、少しだけ顔を上げた。
 でも、無言のまま手を石にかざし、同じくBを選んだ。

 次の問いが浮かび上がる。

 問い二
 あなたの考えと、友だちの考えがちがっていたとき、どうする?

 A 相手を説得する
 B 相手の考えを聞いて、いったん飲みこむ
 C 自分の考えだけを大事にする

 有美がすぐに口を開いた。

 「わたしはBかな。なんか、気持ちってリズムで話す感じだから、まず聞くほうがうまくいく気がするの」

 菜々美もうなずいた。

 「わたしも、Bにする。意見がちがうのは、きっと悪いことじゃないから」

 ふたたび台座が光り、空間にやさしい音楽のような響きが広がる。

 そして、最後の問い。

 問い三
 友だちとけんかしてしまったあと、どうするのが一番たいせつだと思う?

 A どちらが正しいかをはっきりさせる
 B 相手の気持ちを考えて、まず自分から声をかける
 C しばらく時間をおいて冷静になるのを待つ

 その問いに、由香里がはじめて声を出した。

 「私は……たぶん、Bを選ぶ。
 でも、そうできることって、ほんとうはすごく難しいんだよね」

 その言葉に、菜々美も静かに答える。

 「うん。でも、由香里がここにいてくれて、うれしかった。
 わたし、ちゃんと“ありがとう”って伝えてなかったから……ごめんね」

 その瞬間、由香里の目にうっすらと涙が浮かんだ。

 「私も、ごめん。勝手にモヤモヤしてたの、あなたのせいじゃなかったのに」

 二人の前の石が、やわらかな光を放ち、ふたつの光が空中で交差した。
 まるで、それぞれの気持ちが手をとりあったようだった。

 そして、その中心に、聖域へと続く“ほんとうの扉”が現れた。