きらめき夢界ものがたり ~ナナミと四つのカギ~

 目を開けると、そこはどこまでも白く、何もない場所だった。

 足元に境目はなく、空と大地がひとつにつながったような世界。
 静かで、風もなく、時間が止まっているようにさえ感じた。

 「ここは……」

 菜々美は立ち上がり、まわりを見渡す。
 けれど、誰もいない。海音の姿も、由香里も見当たらない。

 ただ、遠くにぽつんと立っている何かがあった。
 それは、楕円のかたちをした、うすい金属のような枠の中に浮かぶ一枚の鏡だった。

 菜々美が近づくと、鏡は彼女の姿をはっきりと映した。
 でも、その鏡の中の自分は、少しだけ様子が違っていた。

 鏡の中の菜々美は、まっすぐこちらを見ながら、話し出した。

 「こんにちは、わたし」

 菜々美は、思わず後ずさりそうになった。

 「あなた……わたし?」

 「そう。夢をあきらめたあなた。ここは、心の奥にある“迷いの聖域”」

 鏡の中の菜々美は、静かにほほえんだ。

 「あなたは、たくさんの夢を見た。でも、そのたびに、こう思わなかった?
 『どうせわたしなんか』『うまくいくはずない』『だれかのほうが向いてる』」

 菜々美は、何も言えなかった。
 言われた言葉は、どれも、心の中でこっそり思っていたことばかりだったから。

 「わたしは、その気持ちから生まれた。
 だから、あなたが前に進もうとするなら、ここで答えてもらう。
 “ほんとうの気持ち”で、わたしに勝てるかどうか」

 そのとき、鏡の表面に三つの問いが浮かび上がった。

 最初の問い
 あなたが夢を語ったとき、だれかが笑ったらどうする?

 A もう二度と話さない
 B 気にしないふりをする
 C それでも話しつづける

 菜々美はじっと問いを見つめる。
 心のどこかで、「笑われたら、もう嫌だ」と思っていた気持ちを感じていた。

 けれど、空のプリンセスの涙や、歌を失ったマーメイドの声を思い出した。

 「C……それでも、話しつづける。夢を見てるだけで、うれしかったから」

 答えた瞬間、鏡が淡く光った。

 次の問い
 もし夢がうまくいかなくても、あなたはどうする?

 A 別の夢に変える
 B 途中でやめる
 C うまくいかなくても、大事に持ち続ける

 菜々美は、ふと目を閉じた。
 夢がうまくいかなかったときの、あの苦しい気持ちは、たしかにあった。

 でも、夢を持っていた時間は、うそじゃない。
 その時間が、今の自分をつくってくれた。

 「C……大事に持ち続けたい。だって、それがわたしの心だから」

 鏡がもう一度光る。

 最後の問い
 あなたは、自分の夢を信じていますか?

 A まだ少し怖い
 B わからない
 C はい、信じてる

 菜々美は、まっすぐ鏡を見つめた。
 心の中で、いろいろな感情がまざりあっていた。
 だけど、今なら、ちゃんと答えられる気がした。

 「C……信じてる。こわくても、迷っても、わたしの夢だから」

 すると、鏡の中の菜々美が、ゆっくりと目を閉じた。

 「それが、あなたの答えなんだね」

 鏡はまぶしい光に包まれ、その中から一冊の本が現れた。
 それは、菜々美が最初に図書室で出会った“夢の本”。
 だけど、表紙には新たに、四つのカギの模様がきざまれていた。

 その本を開くと、中から声が響いた。

 「よくぞ、四つのカギを集めた者よ。
 いま、夢界の扉が開かれる」

 周囲の白い世界が、やわらかく波打ち、菜々美は光の中へと歩き出す。