主人公の座、返してもらいます!〜私が本物の主人公だったらしいので華麗に人生を取り返してみせようと思います〜

ローブの裾が靴にまとわりつき、歩みに重みが宿る。

振り返ることはなかった。けれど、確かに背中には、あの少年の視線が残っていた。

――エクエス。

そう呼んだときの彼の表情が、焼きついて離れない。

まだ幼いように見えたのに、どれだけのものを諦め、どれだけの理不尽に傷つけられてきたのだろう。怒ることも泣くこともせず、ただ静かに受け入れ、呑み込んで、壊れないままそこにいた。

そんな彼が、私を――“守った”。

私が差し伸べた手に、すがるような、でも誇りを取り戻すような眼差しを向けてくれた。

それが、どうしようもなく――嬉しかった。

打算だけじゃない。過去の自分を重ねただけでもない。

あの瞳に、私は希望を見た。

「騎士なんて、なれるのか……」

あの一言の裏にあった震え。勇気。諦めの中に微かに残っていた願い。

だから、私も応えたかった。名を与えることで、未来を開いてあげたかった。

ラエティティア・デア・ペルペトゥスとしてではなく――
この世界に抗うひとりの人間として。

「……本当に、大丈夫だったかな」

誰にも届かない独り言が、冷たい夕暮れの風に攫われていく。

でも、後悔はしていない。

あの手を取ったことも、その名を贈ったことも。

ただ――願う。

いつか彼が、あの名に相応しい誇りをその胸に宿してくれる日が来るように。

そしてまた、どこかで顔を上げ、私の名を呼んでくれたなら――

私は、何度だって彼の主になる。

たとえこの世界が、何度書き換えられようと。