***
窓の縁に座る彼の横顔は、どこか寂しそうで、そして――とても優しかった。
「……よろしくお願いします、ユリエンス殿下」
私がそう告げると、彼は少し照れたように目を逸らした。
「……もう、“ユーリ”でいいよ。殿下なんて、性に合わねぇ。俺もお前のこと、ラティって呼ぶし」
“ラティ”。
彼には初めて呼ばれたはずの愛称。それなのに、初めて呼ばれた気がしなかった。
「じゃあ……ユーリ。どうして今、私を殺さなかったんですか?」
問いかけながら、自分でも少し怖かった。
今の関係が、まだ脆く儚いものだと知っていたから。
だけど、彼はすぐに、くだけた調子で答えた。
「……さあな。俺が“優しくて、皇女様に恋する王子様”だったから、ってことにしとけよ」
その言葉に、私は思わずくすっと笑った。
けれど、分かっていた。
あれは、ただの冗談じゃない。
彼もきっと、どこかで“私と似ている”と感じてしまった。
だから、殺せなかった。
運命を捻じ曲げられ、名前さえも奪われた者同士。
私たちは、同じ痛みを知っていた。
彼が窓から立ち上がったとき、少しだけ寂しさが胸をかすめた。
「また、話そう。ちゃんと計画を立てないとな」
そう言い残して、ユーリは屋根へと消えていった。
私はただ、静かにその背を見送る。
(……ユーリ)
侵略者に書き換えられた世界を、
歪んだ物語を、
私たちは、必ず壊してみせる。
――今度こそ、共に。
そう、夜空に向かって祈るように、私は目を閉じた。
月は、高く静かに輝いていた。
窓の縁に座る彼の横顔は、どこか寂しそうで、そして――とても優しかった。
「……よろしくお願いします、ユリエンス殿下」
私がそう告げると、彼は少し照れたように目を逸らした。
「……もう、“ユーリ”でいいよ。殿下なんて、性に合わねぇ。俺もお前のこと、ラティって呼ぶし」
“ラティ”。
彼には初めて呼ばれたはずの愛称。それなのに、初めて呼ばれた気がしなかった。
「じゃあ……ユーリ。どうして今、私を殺さなかったんですか?」
問いかけながら、自分でも少し怖かった。
今の関係が、まだ脆く儚いものだと知っていたから。
だけど、彼はすぐに、くだけた調子で答えた。
「……さあな。俺が“優しくて、皇女様に恋する王子様”だったから、ってことにしとけよ」
その言葉に、私は思わずくすっと笑った。
けれど、分かっていた。
あれは、ただの冗談じゃない。
彼もきっと、どこかで“私と似ている”と感じてしまった。
だから、殺せなかった。
運命を捻じ曲げられ、名前さえも奪われた者同士。
私たちは、同じ痛みを知っていた。
彼が窓から立ち上がったとき、少しだけ寂しさが胸をかすめた。
「また、話そう。ちゃんと計画を立てないとな」
そう言い残して、ユーリは屋根へと消えていった。
私はただ、静かにその背を見送る。
(……ユーリ)
侵略者に書き換えられた世界を、
歪んだ物語を、
私たちは、必ず壊してみせる。
――今度こそ、共に。
そう、夜空に向かって祈るように、私は目を閉じた。
月は、高く静かに輝いていた。

