主人公の座、返してもらいます!〜私が本物の主人公だったらしいので華麗に人生を取り返してみせようと思います〜

「……殿下」
「……もう、ユーリでいいよ。殿下とか、性に合わねぇ。俺もラティって呼ぶし」

そう言った俺に、彼女はふっと笑った。

「じゃあ……ユーリ。どうして今、私を殺さなかったんですか?」
「……さあな。俺が“優しくて、皇女様に恋する王子様”だったから、ってことにしとけよ」

冗談混じりに返したつもりだった。けど、心の奥ではちゃんと分かってた。

――殺せなかったんだ。あの瞳を見てしまったから。

同じだって、思ってしまったから。

処刑台に立って、誰にも信じられずに死んでいく、あの恐怖を。
物語の“歪み”に殺される、名前を奪われた存在としての運命を。

――俺たちは、それに抗うしかなかった。

侵略者の思い通りにはなりたくなかった。

「……起きてたら、怪しまれるな」

俺は立ち上がる。
ラティの部屋の窓から、静かに屋根の上へと戻った。

「また、話そう。ちゃんと、計画を立てないとな」

彼女がうなずくのを見て、俺は夜の帳の中へと身を消した。

月がまだ、高い位置で光っていた。

俺の行く先には、相変わらず霧が立ち込めている。
それでも、今だけは――その向こうに、かすかな光が見えた気がした。

(……俺たちで、この“歪んだ物語”を壊してやる)

そう心の中で誓って、俺は屋根の向こうへ跳んだ。