主人公の座、返してもらいます!〜私が本物の主人公だったらしいので華麗に人生を取り返してみせようと思います〜

――カチ、と何かが軋む音がした。

夢の続きだったのかもしれない。
けれど、それは――現実の耳に届いた。

私はゆっくりと目を開ける。
部屋の中は、寝る前と変わらない……はずだった。

ただ一つ、違うのは――空気の重さ。

寝台の天蓋越しに見える天井が、やけに遠く感じられる。
心臓が、どくんと大きく脈打った。

(……誰か、いる)

呼吸を乱さぬよう気をつけながら、視線だけをゆっくりと動かす。

深紫のカーテンが、わずかに揺れていた。
窓は確かに閉めたはず。なのに、そこには――人影。

細い身体。長い髪。手には、銀の刃。

(――刺客!?)

冷たいものが背中を駆け抜ける。叫びたくても、声が出ない。
けれど、思考だけは冴えていた。

「……誰……」

それでも、私は問いかけていた。震える声で。

影――少年の姿をしたその人物は、ゆっくりとこちらを見た。
月明かりがその顔を照らす。

薄い金髪と、空を映したような青い瞳。
どちらも、天使を思わせる――アドラティオ王家の特徴的な色。

第一王子・イグニス殿下は、第一王妃殿下譲りの鮮やかなオレンジ色の髪だった。
ならば目の前の彼は――

「第二王子……ユリエンス殿下……?」
「ああ、起きたのか。おはよう」

その声は低く、どこか暗い色を含んでいた。

私は寝台の端で身を起こし、背後にある呼び鈴へと手を伸ばす――
が、彼は止めることもせず、ただ私を見ていた。