主人公の座、返してもらいます!〜私が本物の主人公だったらしいので華麗に人生を取り返してみせようと思います〜

確かにペルペトゥスに皇后陛下は居ない。亡くなったのだろうか。

彼が聖下と誰との間の子かは知らない。けれど、聖下の隣にいた――その事実だけが、胸に小さな棘を残している。

「……殿下のお母様も、きっと素敵な方だったんでしょう?」

控えめに、それでいて探るように問うと、アルビオン殿下は、少しだけ遠い目をして微笑んだ。

「立派だったと思う。俺はお母様に会ったことも話したこともなかったけど、人として尊敬してる」

私はその言葉に、返す言葉を失った。

(母親を知らない……?聖下は一体何をしていたの……?)

沈黙の中、私達は並んで座り続けた。

やがて、アルビオン殿下がぽつりと呟く。

「大人たちは……俺に強くあらねばならないと言うけど。悲しいとき、どうすればいいのか誰も教えてくれなかった」

その言葉に、思わず彼の横顔を見つめた。

紫の瞳が、どこか自分と似ている気がした。何かが欠けているようで、それでも壊れずに立っている光。

(この人も、母親を愛していた。そしてそれを喪った痛みを知っている)

ふと、自分の中に渦巻いていた黒い感情――知らない子供が“母の葬儀にいた”という疎外感――が少しだけ和らいだように感じた。

彼は、自分の居場所を求めている。
それは――私も同じだった。

「……悲しい時は泣いてもいいと思います。泣く事は、弱さの証明じゃありませんから」

アルビオン殿下は、驚いたように目を見開いた。そして、ほんの少しの間を置いて、そっと頷いた。

「……ありがとう。君は優しいんだな」

私は微笑み、それ以上何も言わなかった。