「……ああ。確かにな。お前の言う通りだ、シムラクルム。その子を殺す手間が省けた。それだけは感謝しておこう。さっさと連れて出ていけ」
「言われなくても、こんな陰険な場所、早く離れたいところだ」
叔父様は一歩扉へ向かいながら、振り返る。
「だが一つ、忠告しておこう。……このままでは、お前たちはいつか“痛い目”を見る」
「痛い目? 脆弱なテネブラエに何ができるというんだ?」
その言葉に、叔父様は小さく舌打ちを零し私を抱いたまま踵を返した。
「ラティ、何か持って行きたいものはあるか?」
「乳母のパクシーと……お母様からいただいたネックレスがあれば、充分です」
「そうか……ちゃんとしたお別れもさせてあげられなくて、すまない」
「そんな……それは叔父様だって同じでしょう?」
「……姉上の遺体は、時間がかかっても必ず引き取り、テネブラエで葬儀を行う。だから、それまで少し待っていてくれ」
「はい、叔父様……」
叔父様の腕に抱かれながら、私は離宮の風景を見つめた。回帰前を含めた約十六年を過ごしたこの場所は、もう過去になる。
(全部、変えられなかったわけじゃなかった……叔父様が、来てくれた。でも――)
それでも、お母様はもういない。
もっと、やりようがあったのではないか。
お母様が、テネブラエ王家と連絡を取っていたことすら、私は知らなかった。
(どうして……お母様は、何のために手紙を……?)
けれど、その問いの答えは、もうどこにもなかった。
「言われなくても、こんな陰険な場所、早く離れたいところだ」
叔父様は一歩扉へ向かいながら、振り返る。
「だが一つ、忠告しておこう。……このままでは、お前たちはいつか“痛い目”を見る」
「痛い目? 脆弱なテネブラエに何ができるというんだ?」
その言葉に、叔父様は小さく舌打ちを零し私を抱いたまま踵を返した。
「ラティ、何か持って行きたいものはあるか?」
「乳母のパクシーと……お母様からいただいたネックレスがあれば、充分です」
「そうか……ちゃんとしたお別れもさせてあげられなくて、すまない」
「そんな……それは叔父様だって同じでしょう?」
「……姉上の遺体は、時間がかかっても必ず引き取り、テネブラエで葬儀を行う。だから、それまで少し待っていてくれ」
「はい、叔父様……」
叔父様の腕に抱かれながら、私は離宮の風景を見つめた。回帰前を含めた約十六年を過ごしたこの場所は、もう過去になる。
(全部、変えられなかったわけじゃなかった……叔父様が、来てくれた。でも――)
それでも、お母様はもういない。
もっと、やりようがあったのではないか。
お母様が、テネブラエ王家と連絡を取っていたことすら、私は知らなかった。
(どうして……お母様は、何のために手紙を……?)
けれど、その問いの答えは、もうどこにもなかった。

