〇大学・仮設ルームの定例点検日・午前
学内外からの注目が増し、プロジェクトは想像以上の忙しさを迎えている。
その中心で、咲子は笑顔を絶やさず、誰よりも動いていた。
咲子「よーし!パネル貼り直して、次は来客用の導線チェックね~!幸輝くん、お願い~!」
幸輝「承知。あと、照明コードが一部ゆるんでいる。確認してくれ」
拓海「咲子、昼ごはんまだでしょ。俺が代わるよ」
咲子「え~?ダメだよ~、今日来るの企業の人だもん、第一印象って大事でしょ~?」
拓海(少し困った顔)
「……なら、せめて水だけは飲んで」
〇控室・沙也香が配布資料をチェックしている
沙也香(小声)
「……13部、14部、……足りない……いや、こっちが多い?……どっち……?」
彼女の目の下にはクマ、手には湿布を貼っている。
渚(入ってきて一瞥)
「……沙也香、最近休んでないよね」
沙也香「大丈夫、平気。人が足りないって思うと、放っておけないだけだから」
渚「……それ、いずれ倒れるパターン」
沙也香「……倒れてから考えるよ」
渚(眉をひそめる)
「そうなる前に“人に頼る”って選択肢、持っといて」
〇昼・仮設ルーム・企業の見学会が始まる
外部の建築系企業・福祉団体・教育機関の担当者が集まり、見学ツアーがスタート。
川口が中心となり、ゼミ生が案内を担当する。
川口「皆さん、本日はようこそ。
我々のプロジェクトは“感情に寄り添う空間”を学生の手で作ることを目的に――」
咲子「はいっ!こちらが“ありがとうのゾーン”になります!椅子は姿勢と心拍に反応して照明が変化します!」
企業担当者「……これはすごい、癒される空間ですね」
咲子「うふふ~、ありがとうございますっ!」
〇その直後・咲子の顔色が急に青ざめる
視界がふらつき、足元が崩れる。
拓海「咲子――!?」
咲子「……あ、ごめん、ちょっと……目が、まわ……」
ドサッ。
全員が息を飲み、現場が一瞬静まり返る。
〇救護室・ベッドに横たわる咲子
医務スタッフが簡易診断をしている。
スタッフ「過労ですね。脱水と低血糖。大きな問題ではないですが、今日は絶対に安静に」
咲子「……へへ、やっちゃった~。ごめんね、みんな……」
拓海「……もう謝んなくていいよ。
咲子は、ずっと自分よりみんなを優先してた。……そろそろ、自分も大事にして」
咲子「……拓海ってさ、ずるいよね。
そうやって優しい言葉言われると……泣きたくなるから」
〇同じ頃・沙也香が資料室で膝をついている
資料の束を抱えたまま、立ち上がれない。
震える手でスマホを取り出すが、誰にも連絡できない。
沙也香(心の声)
「……頼るって、どうやるの……
“私がやらなきゃ”って……思ってたのに、
体が、動かない……」
〇資料室・沙也香が崩れるように座り込む
プリントが床に散らばり、照明だけが淡く灯る。
そこへ、偶然通りかかった智貴が入ってくる。
智貴「……沙也香先輩?」
沙也香(顔を上げようとせず)
「……ダメだね。倒れるまで動いて、
それでやっと気づくなんて。ほんとは……ずっと限界だったのに」
智貴(少し間を置き、静かに)
「……人は、プログラムじゃない。エラーは起きるし、止まるのも普通だ」
沙也香(微笑むように)
「……そんなこと、智貴くんに言われる日が来るなんて、ちょっと感動」
智貴「……僕も変わった。“一緒に進む”ためには、
“誰かの負担”を減らす知識だけじゃなくて、気持ちが必要だと気づいたから」
彼は床に膝をつき、沙也香と視線を合わせる。
智貴「今は、頼ってください。データ処理も、分析も、管理も。全部、僕がやります」
沙也香(小さく息をついて、目を閉じ)
「……ありがとう。すこしだけ……甘える」
〇翌日・ゼミ教室・緊急ミーティング
川口「咲子の倒れた件と、沙也香の過労。
今回の教訓として、運営チームの再構成を行います。
今後の負担軽減と心理的サポートを前提に、役割分担を見直す」
拓海「僕が、メンタルチェックと進捗管理を引き受ける。
誰がどこまで無理してるか、ちゃんと見ていく」
瑠璃「“ありがとう”って、言わせないようにしようよ。
……ほんとは“助けて”だった言葉を、ちゃんと受け止めよう」
智貴「感情の分析と共有は、僕と渚が引き受ける。
主観と客観のデータをリンクさせるためのログ設計も進める」
渚「……心が折れる前に、手が届く仕組み。
それが“感情設計”だと思うから」
川口(真剣な顔で)
「……君たち、本当に強くなったな」
〇仮設ルーム・夜・咲子がこっそり訪れる
まだ少しフラつきながらも、灯りに包まれた空間に足を踏み入れる。
そこに、拓海が待っていた。
拓海「来ると思ってた」
咲子「うわ、予知能力?」
拓海「いつも、全部“終わったあと”に一人で来る癖、知ってるから」
咲子(そっと笑って)
「……ここがさ、一番“ありがとう”って言いたくなる場所なんだよね。
でももう、言わない。……言わなくても、伝わってるって、思っていい?」
拓海「……もちろん。言葉がなくても、わかるよ」
咲子(少し泣きそうになりながら)
「……ずるいなぁ、君。
そばにいるだけで、“大丈夫”って言ってくれるなんて」
〇夜・大学構内・仮設ルームの外、柔らかい灯りが差す
咲子が外へ出て、深呼吸。
少し離れた場所に、沙也香もゆっくり歩いてきて、互いに気づく。
沙也香「……来ちゃった?」
咲子「……うん、来ちゃった」
二人、自然と並んで歩き出す。
沙也香「ねぇ、無理してた?」
咲子「うん、してた。そっちは?」
沙也香「うん、してた」
咲子「……バレバレだったかもだけど」
沙也香「……こっちも、ね」
咲子「でも……そろそろさ、“がんばってない日”も、誰かに見せてもいいよね」
沙也香「“支えられてる日”を、ちゃんと“支えられてる”って認められるのって、
ほんとはすごく勇気がいることだよね」
咲子「じゃあ今日は、“勇者記念日”ってことでどう?」
沙也香(笑って)
「それ、気に入った」
〇翌日・ゼミ教室・全員でのミーティング
川口「全体運営は再構成。支え合う形でプロジェクトを再起動する。
今回のテーマは、“頼るって、どういうことか”。
空間設計だけじゃなく、関係設計の視点を強くしていこう」
祐貴「“誰かのために”って言いすぎると、“自分のため”が消えていく。
その境界を探れる場所、作ろう」
俊輔「“ひとりで考える”と、“誰かと一緒に悩む”って、脳の活動部位が変わるらしい。
つまり、支え合いは生理的にも意味がある」
里紗「じゃあ、今日からは“がんばってない報告会”しようよ。
“今日はサボりました”って言えたら100点!」
咲子「いいねそれ!今日、昼まで寝ました~!」
沙也香「私、今日はノータスクで提出物ゼロですっ!」
みんなで笑いがこぼれる。あたたかくて、少し泣きたくなるような雰囲気。
〇夕方・キャンパス中庭・瑠璃と智貴が並んで歩く
瑠璃「……人に頼るのって、慣れてないと難しいよね」
智貴「僕も、“支えること”しか考えていなかった。
でも、支えられる自分のことも、最近ようやく認められるようになった」
瑠璃「……自分の弱さを見せるって、
“ひとりじゃない”って証明になるんだね」
智貴「“ひとりでできること”より、“ふたりでできる世界”の方が、広い」
瑠璃(優しく笑って)
「ふたりって、いいね」
智貴(頷く)
「……いい、と思う」
〇エンドカット・夜の仮設ルームに灯るあかりと、玄関に並ぶ二足の靴
瑠璃(モノローグ)
「ひとりでがんばるのは、すごいこと。
でも、“ひとりでがんばらない”って決めるのは、もっと勇気がいる。
それを笑って言える関係を、私は――ずっと、大切にしていきたい」
タイトルロゴ:
『となりの研究室で、きみと。』
【To be continued...】
学内外からの注目が増し、プロジェクトは想像以上の忙しさを迎えている。
その中心で、咲子は笑顔を絶やさず、誰よりも動いていた。
咲子「よーし!パネル貼り直して、次は来客用の導線チェックね~!幸輝くん、お願い~!」
幸輝「承知。あと、照明コードが一部ゆるんでいる。確認してくれ」
拓海「咲子、昼ごはんまだでしょ。俺が代わるよ」
咲子「え~?ダメだよ~、今日来るの企業の人だもん、第一印象って大事でしょ~?」
拓海(少し困った顔)
「……なら、せめて水だけは飲んで」
〇控室・沙也香が配布資料をチェックしている
沙也香(小声)
「……13部、14部、……足りない……いや、こっちが多い?……どっち……?」
彼女の目の下にはクマ、手には湿布を貼っている。
渚(入ってきて一瞥)
「……沙也香、最近休んでないよね」
沙也香「大丈夫、平気。人が足りないって思うと、放っておけないだけだから」
渚「……それ、いずれ倒れるパターン」
沙也香「……倒れてから考えるよ」
渚(眉をひそめる)
「そうなる前に“人に頼る”って選択肢、持っといて」
〇昼・仮設ルーム・企業の見学会が始まる
外部の建築系企業・福祉団体・教育機関の担当者が集まり、見学ツアーがスタート。
川口が中心となり、ゼミ生が案内を担当する。
川口「皆さん、本日はようこそ。
我々のプロジェクトは“感情に寄り添う空間”を学生の手で作ることを目的に――」
咲子「はいっ!こちらが“ありがとうのゾーン”になります!椅子は姿勢と心拍に反応して照明が変化します!」
企業担当者「……これはすごい、癒される空間ですね」
咲子「うふふ~、ありがとうございますっ!」
〇その直後・咲子の顔色が急に青ざめる
視界がふらつき、足元が崩れる。
拓海「咲子――!?」
咲子「……あ、ごめん、ちょっと……目が、まわ……」
ドサッ。
全員が息を飲み、現場が一瞬静まり返る。
〇救護室・ベッドに横たわる咲子
医務スタッフが簡易診断をしている。
スタッフ「過労ですね。脱水と低血糖。大きな問題ではないですが、今日は絶対に安静に」
咲子「……へへ、やっちゃった~。ごめんね、みんな……」
拓海「……もう謝んなくていいよ。
咲子は、ずっと自分よりみんなを優先してた。……そろそろ、自分も大事にして」
咲子「……拓海ってさ、ずるいよね。
そうやって優しい言葉言われると……泣きたくなるから」
〇同じ頃・沙也香が資料室で膝をついている
資料の束を抱えたまま、立ち上がれない。
震える手でスマホを取り出すが、誰にも連絡できない。
沙也香(心の声)
「……頼るって、どうやるの……
“私がやらなきゃ”って……思ってたのに、
体が、動かない……」
〇資料室・沙也香が崩れるように座り込む
プリントが床に散らばり、照明だけが淡く灯る。
そこへ、偶然通りかかった智貴が入ってくる。
智貴「……沙也香先輩?」
沙也香(顔を上げようとせず)
「……ダメだね。倒れるまで動いて、
それでやっと気づくなんて。ほんとは……ずっと限界だったのに」
智貴(少し間を置き、静かに)
「……人は、プログラムじゃない。エラーは起きるし、止まるのも普通だ」
沙也香(微笑むように)
「……そんなこと、智貴くんに言われる日が来るなんて、ちょっと感動」
智貴「……僕も変わった。“一緒に進む”ためには、
“誰かの負担”を減らす知識だけじゃなくて、気持ちが必要だと気づいたから」
彼は床に膝をつき、沙也香と視線を合わせる。
智貴「今は、頼ってください。データ処理も、分析も、管理も。全部、僕がやります」
沙也香(小さく息をついて、目を閉じ)
「……ありがとう。すこしだけ……甘える」
〇翌日・ゼミ教室・緊急ミーティング
川口「咲子の倒れた件と、沙也香の過労。
今回の教訓として、運営チームの再構成を行います。
今後の負担軽減と心理的サポートを前提に、役割分担を見直す」
拓海「僕が、メンタルチェックと進捗管理を引き受ける。
誰がどこまで無理してるか、ちゃんと見ていく」
瑠璃「“ありがとう”って、言わせないようにしようよ。
……ほんとは“助けて”だった言葉を、ちゃんと受け止めよう」
智貴「感情の分析と共有は、僕と渚が引き受ける。
主観と客観のデータをリンクさせるためのログ設計も進める」
渚「……心が折れる前に、手が届く仕組み。
それが“感情設計”だと思うから」
川口(真剣な顔で)
「……君たち、本当に強くなったな」
〇仮設ルーム・夜・咲子がこっそり訪れる
まだ少しフラつきながらも、灯りに包まれた空間に足を踏み入れる。
そこに、拓海が待っていた。
拓海「来ると思ってた」
咲子「うわ、予知能力?」
拓海「いつも、全部“終わったあと”に一人で来る癖、知ってるから」
咲子(そっと笑って)
「……ここがさ、一番“ありがとう”って言いたくなる場所なんだよね。
でももう、言わない。……言わなくても、伝わってるって、思っていい?」
拓海「……もちろん。言葉がなくても、わかるよ」
咲子(少し泣きそうになりながら)
「……ずるいなぁ、君。
そばにいるだけで、“大丈夫”って言ってくれるなんて」
〇夜・大学構内・仮設ルームの外、柔らかい灯りが差す
咲子が外へ出て、深呼吸。
少し離れた場所に、沙也香もゆっくり歩いてきて、互いに気づく。
沙也香「……来ちゃった?」
咲子「……うん、来ちゃった」
二人、自然と並んで歩き出す。
沙也香「ねぇ、無理してた?」
咲子「うん、してた。そっちは?」
沙也香「うん、してた」
咲子「……バレバレだったかもだけど」
沙也香「……こっちも、ね」
咲子「でも……そろそろさ、“がんばってない日”も、誰かに見せてもいいよね」
沙也香「“支えられてる日”を、ちゃんと“支えられてる”って認められるのって、
ほんとはすごく勇気がいることだよね」
咲子「じゃあ今日は、“勇者記念日”ってことでどう?」
沙也香(笑って)
「それ、気に入った」
〇翌日・ゼミ教室・全員でのミーティング
川口「全体運営は再構成。支え合う形でプロジェクトを再起動する。
今回のテーマは、“頼るって、どういうことか”。
空間設計だけじゃなく、関係設計の視点を強くしていこう」
祐貴「“誰かのために”って言いすぎると、“自分のため”が消えていく。
その境界を探れる場所、作ろう」
俊輔「“ひとりで考える”と、“誰かと一緒に悩む”って、脳の活動部位が変わるらしい。
つまり、支え合いは生理的にも意味がある」
里紗「じゃあ、今日からは“がんばってない報告会”しようよ。
“今日はサボりました”って言えたら100点!」
咲子「いいねそれ!今日、昼まで寝ました~!」
沙也香「私、今日はノータスクで提出物ゼロですっ!」
みんなで笑いがこぼれる。あたたかくて、少し泣きたくなるような雰囲気。
〇夕方・キャンパス中庭・瑠璃と智貴が並んで歩く
瑠璃「……人に頼るのって、慣れてないと難しいよね」
智貴「僕も、“支えること”しか考えていなかった。
でも、支えられる自分のことも、最近ようやく認められるようになった」
瑠璃「……自分の弱さを見せるって、
“ひとりじゃない”って証明になるんだね」
智貴「“ひとりでできること”より、“ふたりでできる世界”の方が、広い」
瑠璃(優しく笑って)
「ふたりって、いいね」
智貴(頷く)
「……いい、と思う」
〇エンドカット・夜の仮設ルームに灯るあかりと、玄関に並ぶ二足の靴
瑠璃(モノローグ)
「ひとりでがんばるのは、すごいこと。
でも、“ひとりでがんばらない”って決めるのは、もっと勇気がいる。
それを笑って言える関係を、私は――ずっと、大切にしていきたい」
タイトルロゴ:
『となりの研究室で、きみと。』
【To be continued...】



