〇大学・仮設ルーム内・数日後の昼
24時間実験の成功を受け、仮設ルームは“公開展示”という形で一週間だけ開放されることになった。
学内外から見学者が訪れ、大学のSNSアカウントでも紹介され、話題に。
見学者の声(モブ)
「これ全部、学生だけで?すごい……」
「これ、住宅メーカーと組んだら実用化できるんじゃ……?」
川口(見学案内中)
「そうなんです。“未来の感情デザインルーム”って呼んでます。名前は仮ですけどね!」
〇仮設ルーム外・ゼミメンバーたちが次の作業を準備している
拓海「なんか、どんどん大きくなってない?このプロジェクト」
咲子「でもやっぱさ、自分たちの作ったのが“誰かに見られる”って、気持ちいいよね~!」
幸輝「次の段階は、外部機関とのコラボの可否だな。予算申請を視野に入れるべきか……」
渚「……その前に、“継続メンバー”を明確にした方がいいかもね。全員ついて来られるとは限らない」
〇同・一歩離れた場所・啓太とはるなが談笑中
はるな「この前の実験、よく頑張ったよね。最初、めちゃくちゃ緊張してたけど」
啓太「……ああ。うん、楽しかったよ。みんなすごくてさ、自分がここにいていいのかなって、ちょっと思ったけど」
はるな「“すごくない自分”がいたから、バランス取れてたって思ってるけど?」
啓太(苦笑しながら)
「そっか。……ありがとう」
〇同・その場に現れる瑠璃
瑠璃「やっほー。啓太くん、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
啓太「え? ……う、うん。なに?」
瑠璃「このプロジェクト、外部連携の話が来るかもでしょ?そのとき、使用者視点のプレゼン、してくれないかなって」
啓太「……え」
瑠璃「“孤独”の感覚、リアルに話してくれたの、すごく響いたから。無理にとは言わないけど、あの言葉……伝えてみたいなって」
啓太(目を見開き、言葉に詰まる)
はるな(すっと表情を曇らせて)
「瑠璃ちゃん……」
瑠璃「うん? ……あ、ごめん、やっぱ突然すぎたかな?」
啓太「……ごめん。考えさせて」
〇夜・啓太の自室・ロフト付きの狭い一人暮らしの部屋
暗い部屋の中、スマホの光だけが点いている。
瑠璃からのメッセージ通知が画面に浮かぶ。
瑠璃:ほんとに無理しないでね。でも、啓太くんの気持ち、すごく力になると思うから。
啓太(心の声)
「“力になる”……俺の気持ちが、誰かの役に立つ?……そんなわけ……ないだろ」
彼はスマホを伏せ、膝を抱えて沈黙する。
〇翌日・ゼミミーティング
瑠璃がプレゼン用のスライド構成案を提案している。
瑠璃「ユーザー体験として、“感情の変化”をどう捉えたか。できれば、啓太くんに話してもらえたら……」
啓太(沈黙)
瑠璃「……無理はしなくていいけど、啓太くんが話してくれた“ひとりだった時の気持ち”、それが企画の核になってるから」
啓太「……」
瑠璃「……だめ、かな?」
啓太(ゆっくりと立ち上がり)
「……なんで……なんで俺にばっかり……“孤独なやつ”みたいなラベル、貼られなきゃいけないの?」
ゼミ室が静まり返る。
啓太「確かに、俺、ひとりだったよ。でも、それを言ったのは……ただの独り言だった」
啓太「それを勝手に“使える”って思われて……勝手に“感動”されて……勝手に“役割”を与えられるの……すげえ、苦しいんだよ」
瑠璃(言葉を失う)
〇ゼミ教室・啓太の爆発の直後、張り詰めた空気
啓太は拳を握り、机を睨んでいる。
瑠璃は唇を噛みしめながら、言葉が出ないまま立ち尽くしている。
はるな(そっと立ち上がり、啓太の腕を取る)
「……行こう。ここに、今いる必要はないよ」
啓太(はるなの手を振りほどかず、うつむいたままドアの外へ)
ガチャ――ドアが閉まり、空気が揺れる。
川口(静かに息をついて)
「……一旦、中断しようか」
〇数時間後・屋外ベンチ・瑠璃と智貴が並んで座る
瑠璃「……私、“間違えた”かな」
智貴「間違えたかどうかは、結果次第だ。まだ“終わって”はいない」
瑠璃「でも、啓太くんは、あのとき苦しかった。
……私は、それを“物語”みたいに消費しちゃったのかもしれない」
智貴(少し黙ってから)
「僕は、君のやり方を否定しない。……が、今回は“観測”が足りなかった。
感情は、変数が多すぎる。定義できたと思った時こそ危ない」
瑠璃「……ほんとに、君って人は」
智貴「君が“感覚”で見てるものを、僕は“構造”で見てるだけだ」
瑠璃(笑って、肩を落とす)
「……それ、ちょっとだけ救われた。ありがとう」
〇はるなの部屋・夜・啓太と二人きり
啓太(膝を抱えながら)
「……俺、間違ってないよな?」
はるな「うん。“自分の気持ち”を守ろうとしたんだもん。間違ってないよ」
啓太「でもさ……あのとき、ほんとはちょっとだけ、“嬉しかった”気もするんだ。
俺の話を、“覚えててくれた”ってことが……」
はるな「それが“嬉しい”って、思えるうちは大丈夫だよ。
怒ってもいい。拒否してもいい。でも――君がここにいることは、誰かの安心になってる」
啓太(ふっと小さく笑う)
「はるなって、ほんと優しいね」
はるな「それ、よく“疲れる”って言われるやつ」
〇大学・ゼミ教室・翌日朝
ゼミメンバーたちが少しぎこちない雰囲気で着席している。
そこへ、ドアが開き、啓太が現れる。
啓太(やや気まずそうに)
「……あの、昨日はごめん。俺、自分でもうまく言えなかったけど……
“話すこと”が、怖かったんだ。何を言っても、またひとりになる気がして」
瑠璃(ゆっくり立ち上がり、真剣な眼差しで)
「……私の方こそ、ごめん。啓太くんの言葉を、“都合よく使ってた”のかもしれない。
でも、ほんとうに、あの時の話……私の背中を押してくれたんだよ」
啓太「……ありがとう。少しだけ、話してみたいと思う。俺なりに」
瑠璃「……うん。聞かせて」
〇数日後・外部報告会でのプレゼン・啓太が登壇
ライトに照らされるステージ上。
啓太は緊張しながらも、しっかりと前を向いている。
啓太「僕は、少し前まで、ずっと“誰にも見えない部屋”で暮らしていたような気がしていました。
話しかけても返事がない、笑っても届かない――
それが“ひとり”ってことなんだと思ってました」
スクリーンには“未来の暮らし”の図解と、ぬいぐるみ型のデバイスの映像。
啓太「でもこのプロジェクトを通して、
“誰かに見てもらえる”ことが、
こんなに“心をあたためる”ものなんだって、気づきました」
啓太「孤独って、誰かの優しい声で、少しだけ緩むことがあるんです。
僕は、それを……この場所で知りました」
拍手が静かに、けれど確実に広がっていく。
〇外部報告会・プレゼン後の控室
ゼミメンバーが静かに拍手しながら啓太を迎える。
はるなが涙目で拍手しながら一番に駆け寄る。
はるな「……すっごく、よかったよ」
啓太(照れたように笑い)
「……ありがとう。はるなのおかげ。
一人でだったら、たぶん……逃げてた」
川口「堂々としてたな、啓太。すごく“伝わった”よ」
渚「……あの距離感、あんたにしか出せない。よくやった」
幸輝「伝えるって行為、あれは一種の責任だ。果たしたな」
瑠璃(少し離れて見ていたが、ゆっくりと近づく)
瑠璃「……ありがとう。啓太くんの言葉が、プロジェクトの“心臓”になったと思う」
啓太「……ううん。ありがとう、ってこっちのセリフかも。
“失敗したくない”って思って、動けなかった俺に――動く理由くれたのは、瑠璃だったから」
瑠璃(目を丸くしてから、そっと笑い)
「……それは、ちょっとだけ嬉しいな」
〇その日の夜・大学構内・仮設ルームを見上げる智貴と瑠璃
ライトに照らされた建物。ゆっくり灯りが落ちていく。
智貴「……プロジェクトは、次の段階に入った。今後は実装精度と、社会実験だ」
瑠璃「そうだね。でも私、ちょっとだけ……“自分”のことも信じられるようになった気がする」
智貴「それは、良かった。“信頼”は、プロセスの第一歩だ」
瑠璃「うん。でも、私はまだ、“正しさ”はわからない。
何が“ベスト”なのか、今もわかんないままだよ」
智貴「ベストの定義は、状況で変わる。常に答えが動いている。
でも――動きながら、問い続ければ、それでいい」
瑠璃(そっと目を閉じて)
「……そう言ってくれるの、たぶん君だけだよ。
でも……それ、すごく嬉しい」
二人、風の音だけが聞こえる静寂のなかに立ち尽くす。
〇エンドカット・モノローグ/瑠璃
瑠璃(モノローグ)
「“失敗したくなかった”――それはたぶん、怖がってただけだった。
でも今なら、ちょっとだけ違う気持ちで言える。
“失敗しても、またやってみよう”って。
そう思えるのは、きっと――となりにいてくれた、あなたのおかげ。」
タイトルロゴ:
『となりの研究室で、きみと。』
【To be continued...】
24時間実験の成功を受け、仮設ルームは“公開展示”という形で一週間だけ開放されることになった。
学内外から見学者が訪れ、大学のSNSアカウントでも紹介され、話題に。
見学者の声(モブ)
「これ全部、学生だけで?すごい……」
「これ、住宅メーカーと組んだら実用化できるんじゃ……?」
川口(見学案内中)
「そうなんです。“未来の感情デザインルーム”って呼んでます。名前は仮ですけどね!」
〇仮設ルーム外・ゼミメンバーたちが次の作業を準備している
拓海「なんか、どんどん大きくなってない?このプロジェクト」
咲子「でもやっぱさ、自分たちの作ったのが“誰かに見られる”って、気持ちいいよね~!」
幸輝「次の段階は、外部機関とのコラボの可否だな。予算申請を視野に入れるべきか……」
渚「……その前に、“継続メンバー”を明確にした方がいいかもね。全員ついて来られるとは限らない」
〇同・一歩離れた場所・啓太とはるなが談笑中
はるな「この前の実験、よく頑張ったよね。最初、めちゃくちゃ緊張してたけど」
啓太「……ああ。うん、楽しかったよ。みんなすごくてさ、自分がここにいていいのかなって、ちょっと思ったけど」
はるな「“すごくない自分”がいたから、バランス取れてたって思ってるけど?」
啓太(苦笑しながら)
「そっか。……ありがとう」
〇同・その場に現れる瑠璃
瑠璃「やっほー。啓太くん、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
啓太「え? ……う、うん。なに?」
瑠璃「このプロジェクト、外部連携の話が来るかもでしょ?そのとき、使用者視点のプレゼン、してくれないかなって」
啓太「……え」
瑠璃「“孤独”の感覚、リアルに話してくれたの、すごく響いたから。無理にとは言わないけど、あの言葉……伝えてみたいなって」
啓太(目を見開き、言葉に詰まる)
はるな(すっと表情を曇らせて)
「瑠璃ちゃん……」
瑠璃「うん? ……あ、ごめん、やっぱ突然すぎたかな?」
啓太「……ごめん。考えさせて」
〇夜・啓太の自室・ロフト付きの狭い一人暮らしの部屋
暗い部屋の中、スマホの光だけが点いている。
瑠璃からのメッセージ通知が画面に浮かぶ。
瑠璃:ほんとに無理しないでね。でも、啓太くんの気持ち、すごく力になると思うから。
啓太(心の声)
「“力になる”……俺の気持ちが、誰かの役に立つ?……そんなわけ……ないだろ」
彼はスマホを伏せ、膝を抱えて沈黙する。
〇翌日・ゼミミーティング
瑠璃がプレゼン用のスライド構成案を提案している。
瑠璃「ユーザー体験として、“感情の変化”をどう捉えたか。できれば、啓太くんに話してもらえたら……」
啓太(沈黙)
瑠璃「……無理はしなくていいけど、啓太くんが話してくれた“ひとりだった時の気持ち”、それが企画の核になってるから」
啓太「……」
瑠璃「……だめ、かな?」
啓太(ゆっくりと立ち上がり)
「……なんで……なんで俺にばっかり……“孤独なやつ”みたいなラベル、貼られなきゃいけないの?」
ゼミ室が静まり返る。
啓太「確かに、俺、ひとりだったよ。でも、それを言ったのは……ただの独り言だった」
啓太「それを勝手に“使える”って思われて……勝手に“感動”されて……勝手に“役割”を与えられるの……すげえ、苦しいんだよ」
瑠璃(言葉を失う)
〇ゼミ教室・啓太の爆発の直後、張り詰めた空気
啓太は拳を握り、机を睨んでいる。
瑠璃は唇を噛みしめながら、言葉が出ないまま立ち尽くしている。
はるな(そっと立ち上がり、啓太の腕を取る)
「……行こう。ここに、今いる必要はないよ」
啓太(はるなの手を振りほどかず、うつむいたままドアの外へ)
ガチャ――ドアが閉まり、空気が揺れる。
川口(静かに息をついて)
「……一旦、中断しようか」
〇数時間後・屋外ベンチ・瑠璃と智貴が並んで座る
瑠璃「……私、“間違えた”かな」
智貴「間違えたかどうかは、結果次第だ。まだ“終わって”はいない」
瑠璃「でも、啓太くんは、あのとき苦しかった。
……私は、それを“物語”みたいに消費しちゃったのかもしれない」
智貴(少し黙ってから)
「僕は、君のやり方を否定しない。……が、今回は“観測”が足りなかった。
感情は、変数が多すぎる。定義できたと思った時こそ危ない」
瑠璃「……ほんとに、君って人は」
智貴「君が“感覚”で見てるものを、僕は“構造”で見てるだけだ」
瑠璃(笑って、肩を落とす)
「……それ、ちょっとだけ救われた。ありがとう」
〇はるなの部屋・夜・啓太と二人きり
啓太(膝を抱えながら)
「……俺、間違ってないよな?」
はるな「うん。“自分の気持ち”を守ろうとしたんだもん。間違ってないよ」
啓太「でもさ……あのとき、ほんとはちょっとだけ、“嬉しかった”気もするんだ。
俺の話を、“覚えててくれた”ってことが……」
はるな「それが“嬉しい”って、思えるうちは大丈夫だよ。
怒ってもいい。拒否してもいい。でも――君がここにいることは、誰かの安心になってる」
啓太(ふっと小さく笑う)
「はるなって、ほんと優しいね」
はるな「それ、よく“疲れる”って言われるやつ」
〇大学・ゼミ教室・翌日朝
ゼミメンバーたちが少しぎこちない雰囲気で着席している。
そこへ、ドアが開き、啓太が現れる。
啓太(やや気まずそうに)
「……あの、昨日はごめん。俺、自分でもうまく言えなかったけど……
“話すこと”が、怖かったんだ。何を言っても、またひとりになる気がして」
瑠璃(ゆっくり立ち上がり、真剣な眼差しで)
「……私の方こそ、ごめん。啓太くんの言葉を、“都合よく使ってた”のかもしれない。
でも、ほんとうに、あの時の話……私の背中を押してくれたんだよ」
啓太「……ありがとう。少しだけ、話してみたいと思う。俺なりに」
瑠璃「……うん。聞かせて」
〇数日後・外部報告会でのプレゼン・啓太が登壇
ライトに照らされるステージ上。
啓太は緊張しながらも、しっかりと前を向いている。
啓太「僕は、少し前まで、ずっと“誰にも見えない部屋”で暮らしていたような気がしていました。
話しかけても返事がない、笑っても届かない――
それが“ひとり”ってことなんだと思ってました」
スクリーンには“未来の暮らし”の図解と、ぬいぐるみ型のデバイスの映像。
啓太「でもこのプロジェクトを通して、
“誰かに見てもらえる”ことが、
こんなに“心をあたためる”ものなんだって、気づきました」
啓太「孤独って、誰かの優しい声で、少しだけ緩むことがあるんです。
僕は、それを……この場所で知りました」
拍手が静かに、けれど確実に広がっていく。
〇外部報告会・プレゼン後の控室
ゼミメンバーが静かに拍手しながら啓太を迎える。
はるなが涙目で拍手しながら一番に駆け寄る。
はるな「……すっごく、よかったよ」
啓太(照れたように笑い)
「……ありがとう。はるなのおかげ。
一人でだったら、たぶん……逃げてた」
川口「堂々としてたな、啓太。すごく“伝わった”よ」
渚「……あの距離感、あんたにしか出せない。よくやった」
幸輝「伝えるって行為、あれは一種の責任だ。果たしたな」
瑠璃(少し離れて見ていたが、ゆっくりと近づく)
瑠璃「……ありがとう。啓太くんの言葉が、プロジェクトの“心臓”になったと思う」
啓太「……ううん。ありがとう、ってこっちのセリフかも。
“失敗したくない”って思って、動けなかった俺に――動く理由くれたのは、瑠璃だったから」
瑠璃(目を丸くしてから、そっと笑い)
「……それは、ちょっとだけ嬉しいな」
〇その日の夜・大学構内・仮設ルームを見上げる智貴と瑠璃
ライトに照らされた建物。ゆっくり灯りが落ちていく。
智貴「……プロジェクトは、次の段階に入った。今後は実装精度と、社会実験だ」
瑠璃「そうだね。でも私、ちょっとだけ……“自分”のことも信じられるようになった気がする」
智貴「それは、良かった。“信頼”は、プロセスの第一歩だ」
瑠璃「うん。でも、私はまだ、“正しさ”はわからない。
何が“ベスト”なのか、今もわかんないままだよ」
智貴「ベストの定義は、状況で変わる。常に答えが動いている。
でも――動きながら、問い続ければ、それでいい」
瑠璃(そっと目を閉じて)
「……そう言ってくれるの、たぶん君だけだよ。
でも……それ、すごく嬉しい」
二人、風の音だけが聞こえる静寂のなかに立ち尽くす。
〇エンドカット・モノローグ/瑠璃
瑠璃(モノローグ)
「“失敗したくなかった”――それはたぶん、怖がってただけだった。
でも今なら、ちょっとだけ違う気持ちで言える。
“失敗しても、またやってみよう”って。
そう思えるのは、きっと――となりにいてくれた、あなたのおかげ。」
タイトルロゴ:
『となりの研究室で、きみと。』
【To be continued...】



