〇大学・就職ガイダンス会場・午後
 スーツ姿の学生が並ぶ中、はるなはひとり端の席で静かに資料を眺めている。
  周囲の空気に馴染めず、手元のペンを指で回し続けている。
 ナレーション(心の声)
  「“就職活動”。その言葉がずっと苦手だった。
  向いてるかどうかも、やりたいことも、はっきりしない。
  なのに、“選ばなきゃ”って焦るばかりで――
  私、何かを“選ばなかった理由”ばかり考えてた」

 〇大学構内・仮設ルーム・瑠璃とはるなが並んで作業中
 瑠璃「ねえ、はるなちゃんってさ、
  本当は“何をやりたくないか”なら、はっきりしてるタイプじゃない?」
 はるな「……うん、そうかも。
  でも“これがやりたい!”ってのは、やっぱり浮かばなくて……
  何かを捨てたくない、選びたくないって思ってるだけなのかも」
 瑠璃「でもね、捨てなくてもいいよ。
  “選ばなかった道”を、ちゃんと持っておいていいと思う」
 はるな(きょとんとして)
  「……持っておいて、いい?」
 瑠璃「うん。“全部諦めた”じゃなくて、“あとで拾う”って思えばいいの。
  人生、道順なんて決まってないんだし」

 〇その夜・はるなの部屋・静かな机の前
 広げたノートに、彼女はペンを走らせている。
 ・やりたくないこと:無理な営業/人前でプレゼン
  ・やってみたかったこと(子どもの頃):絵を描く、誰かの話を聞く
  ・“選ばなかった道”:保育士、カウンセラー、美術系学部
 はるな(心の声)
  「“選ばなかったから、もう戻れない”って思ってた。
  でも、選ばなかっただけで、“失ったわけじゃない”って、
  今なら……ちょっとだけ、思えるかも」

 〇翌日・仮設ルームでの会話・沙也香とはるな
 沙也香「私さ、スポーツ推薦断ってこの大学来たの。
  “選んでないこと”に、ずっと未練があってさ」
 はるな「……それ、後悔してる?」
 沙也香「してた。でも最近、ちょっとずつ“今の選択も悪くなかったかも”って思えてきた。
  自分で“納得する”までに時間はかかるけど、無駄にはならないよ」
 はるな「……ありがとう。
  私、まだ怖いけど、選ぶことが全部“終わり”じゃないって、思ってみたい」

 〇大学構内・ゼミの進路相談会・昼休み
 川口が各学生に声をかけている中、はるなも静かに資料を持って席に座る。
 川口「……はるな、お前は“正直な感受性”が強みだと思ってる。
  でもそれは、選択の場面では“迷い”として出やすいよな」
 はるな「……はい。
  たくさんの選択肢を“選ばない”ことで、
  自分が“何者でもなくなっていく”気がして」
 川口「それは逆。“選ばなかった道”を抱えた人間のほうが、幅広く他人を理解できる。
  “失ってない”って考え方、大事にしていい」
 はるな(ゆっくりうなずく)
  「……はい。ちょっと、救われました」

 〇夕方・構内のベンチ・はるなと祐貴が話している
 祐貴「俺は最初から“一人で選びたい”って思ってた。
  だから“相談する”って発想自体がなかった」
 はるな「……それって、かっこいいな」
 祐貴「でもな、最近は逆に“誰かの意見を持ち帰って考える”ってのもアリだと思えてきた。
  選ばなかった理由を他人に話すことで、
  “選んだこと”に自信が持てるようになる」
 はるな(はっとした表情)
  「……その考え方、すごく……いいな。
  “選ばなかった自分”を否定しないでいられる気がする」
 祐貴「じゃあ、“選ばなかったリスト”一緒に残してこうぜ。
  将来、見返す時が来るから」
 はるな(微笑みながら)
  「……うん、“持ち帰っておく”って、いいかもしれない」

 〇夜・はるなの部屋・彼女は机の上に「選ばなかった道ノート」を置く
 ノートの見出し:
 『選ばなかったけど、大切な道たち』
  ―未来の私が拾いに行けるように―
 ページの一部には、こんなメモも:
 カウンセラー/相手の心を整えることに興味がある


 絵本作家/子どもの心に届く物語を書いてみたい


 人に頼られることより、「誰かの時間に寄り添える人」になりたい


 はるな(心の声)
  「どんなに迷っても、“残す”って選び方がある。
  捨てるんじゃなくて、“まだ選ばない”だけ。
  そんなふうに未来を信じられたら――今の私も、ちょっとずつ歩き出せる」

 〇展示会・「選ばなかった道ノート」ブース
 はるなが提案した新展示。
  壁には透明なポケットが無数に並び、それぞれに「選ばなかった夢」「迷った選択肢」が書かれた紙が入っている。
 ・美大に行きたかったけど、親に言えなかった
  ・教師になる夢、今もどこかにある
  ・東京に出るつもりだったけど、地元を選んだ
 はるなの説明文:
 「このノートは、“あきらめた”ことではなく、“あとで拾うかもしれない”ことたちです。
  選ばなかったからこそ、大切に覚えていたいことって、ありませんか?」
 来場者(モブ)
  「これ、なんだか泣きそうになる……」
  「“あとで拾う”って発想、すごくやさしいな……」

 〇展示終了後・仮設ルーム・ゼミメンバーが感想を語り合っている
 咲子「……“自分の今”を肯定してもらえる展示だったよね」
 拓海「“迷ってる自分”を、そのまま残していいって初めて思えたかも」
 瑠璃「はるなちゃんの言葉って、すごく静かだけど、ちゃんと届くよね」
 はるな(少し照れながら)
  「……選べなかった自分をずっと責めてたけど、
  誰かがそれを“大事”って言ってくれたら、ちょっと変われた気がするの」

 〇夜・構内の芝生エリア・一人座るはるなに祐貴が近づく
 祐貴「……“選ばなかった道”、いくつになっても気になるもんだな」
 はるな「でも、今日の展示でわかった気がする。
  “選ばなかった”っていう後悔より、“覚えていられた”ことが、もう大事なんだって」
 祐貴「それを、ちゃんと形にしたのはお前だ。すごいよ」
 はるな「ありがとう。“今”を信じられるようになったら、
  未来って、ちょっとだけ優しく見えるんだね」
 ふたり、風の中に静かに座り、何も言わずに夜空を見上げる。

 〇エンドカット・ノートの最後のページ・手書きの言葉
 「未来の私へ。
  あのとき選ばなかった道は、まだここにあります。
  だから安心して、“今”を歩いてください。」
 タイトルロゴ:
  『となりの研究室で、きみと。』
 【To be continued...】