〇大学・仮設ルーム裏の控室・放課後
沙也香が1人で、設営用の資材リストを黙々とチェックしている。
疲れの滲む表情、けれど誰にも頼らず手を動かす。
咲子(手に飲み物を持って入ってくる)
「沙也香~、これ、差し入れ。ブラックとミルク、どっちが好き?」
沙也香(振り返り、作り笑顔)
「……どっちでもいいよ。ありがと」
咲子「じゃあ甘いやつね。疲れてるでしょ?」
沙也香「……別に、平気。慣れてるし」
咲子(目を細めてじっと見る)
「“平気なふり”、そろそろ疲れない?」
沙也香「……っ」
咲子「私、ずっとそれで倒れたから。わかるんだよ」
〇同じ頃・ゼミ教室・グループ会議
各自のテーマの次段階に向けた議論が進む中、
川口がふと全体に問いかける。
川口「“あなたの正しさ”は、誰が決めたものですか?」
一同、静まる。
川口「“自分らしさ”って言葉はよく出てくるけど、
その“らしさ”が、自分の首を絞めてないか。
そろそろ一度、解きほぐしてもいい時期なんじゃないかと思ってる」
瑠璃(静かに頷きながら)
「“らしくあろう”とするほど、“今”の自分が苦しくなる時って、あるよね」
智貴「……“自分を守るはずの枠”が、牢になることもある。定義は常に見直すべき」
拓海「……たぶん、沙也香がそれにぶつかってる」
〇仮設ルーム裏・沙也香と咲子の会話続き
沙也香「“頼れる人”でいるのが、私の“役目”だって思ってた。
期待されるのが当たり前で、いつの間にか“そうあるべき”になってた」
咲子「……でもね、“期待に応えること”と“自分を守ること”は別だよ」
沙也香「わかってるよ。でも、
“期待してもらえるうちが花”だって思うから――
応えられない自分が怖いんだよ……」
咲子(静かに)
「“応えられない日”があっても、私たちは沙也香の味方でいられるよ」
沙也香(肩を落とし、小さく)
「……そう思ってくれる人がいて、よかった」
咲子(にっこり)
「じゃあ今から、“らしさ”をやめる練習しよ?」
〇夜・沙也香の部屋・彼女が1人でノートを開く
ノートのメモ:
・頼れる人=私?
・期待に応える=“私らしさ”?
・“自分のため”の選択肢、どこにあったっけ
沙也香(心の声)
「“らしくあれ”って声を、自分の中にずっと響かせてきた。
でもそれが、自分の声じゃなかったら――もう手放しても、いいのかもしれない」
〇翌日・大学構内・プロジェクト定例ミーティング
各チームが次のサブテーマを提出する日。
沙也香は、自分のパートの紙を少しだけ震える手で掲示板に貼る。
【テーマ案】「頼られることの重さと、頼ることへの勇気」
教室が静まり返る。
だがすぐに、拍手が起こる。咲子が最初に手を叩き、拓海、瑠璃、そして全員が続く。
川口(うなずきながら)
「……いい視点だ。“役割”って言葉の裏にあるものを、ちゃんと見ようとしてる」
祐貴「“期待の構造”を明らかにするのは、社会全体の設計にも応用できる」
沙也香(小さく、安堵のため息)
咲子(隣でそっと囁く)
「やっと、自分の名前で話し始めたね」
沙也香「……うん、怖かったけど、出してみてよかった」
〇その日の夕方・仮設ルーム・沙也香と拓海が展示試作を行っている
展示内容は「あなたが“頼られている”と思った瞬間を書いてください」というもの。
壁には、匿名のメッセージが付箋で貼られていく。
拓海「これ……けっこうくるな。
“お姉ちゃんだから我慢してって言われた”とか、“聞き役ばっかり”とか」
沙也香「“頼られること”って、裏返すと“孤独”と似てるんだね」
拓海「……俺は、沙也香が頼られる姿をすごいって思ってた。
でも、そこに“寂しさ”があるなんて、気づけなかったよ」
沙也香(ふと笑い)
「それ、今聞けてよかった。
……“すごい人”って、時々すごく一人になるからさ」
拓海「じゃあ、今後はちゃんと手、伸ばすよ。
“支えてる風”じゃなくて、ほんとに隣に立つやつとして」
沙也香(少し目を潤ませながら)
「……うん。ありがとう」
〇夜・沙也香の部屋・机の上に新しいノート
彼女はそっと新しい表紙をめくる。
新しいノートのタイトル:
「“私らしく”の再定義ノート」
1ページ目に、彼女は書く。
・頼られる私も、頼る私も、どっちも“私”
・強さの中にある弱さを見せる勇気
・“完璧”じゃない関係が、いちばん優しい
沙也香(心の声)
「“私らしさ”は、私の中にある。
誰かの期待じゃなくて、自分で決めていい。
やっとそう思えるようになった――今なら」
〇展示会本番・「頼られることの重さ」ブース
沙也香と咲子が中心となって構成した展示が、
来場者にじわじわと反響を呼んでいる。
ブース中央には、こう書かれた垂れ幕。
「“しっかりしてるね”って言葉で、泣きたくなったことはありませんか?」
壁一面に、誰かの心の声が貼られている。
「いつも元気だと思われてるけど、ほんとは休みたかった」
「“ちゃんとしてる人”でいなきゃ、って勝手に思い込んでた」
来場者の反応(モブ)
「……これ、自分のことだと思った」
「“らしさ”って、背負わされると苦しいんだな……」
〇展示会終盤・沙也香が小学生くらいの女の子と話している
少女「わたし、よく“お姉ちゃんだから”って言われるの。泣いちゃダメって」
沙也香(しゃがんで目線を合わせる)
「泣いてもいいよ。強い人って、本当はいっぱい泣いてるから」
少女「……ほんと?」
沙也香「うん。泣いたあと、また立ち上がる人が“ほんとの強さ”だよ」
少女(にこっと笑う)
「……じゃあ、ちょっとだけ泣いてもいい?」
沙也香「もちろん。ここは、泣いてもいい場所だから」
少女が母親に抱きつき、沙也香はそっと見守る。
〇展示終了後・大学中庭・夕陽の中を歩く沙也香と咲子
咲子「……私、ずっと沙也香に憧れてたんだ。
何でもできて、頼られて、かっこよくて」
沙也香「でもそれって、“無理してる私”だったかも」
咲子「それでも、“かっこつける勇気”ってあると思う。
だけど今日の沙也香は、“かっこつけない勇気”がもっとすごかった」
沙也香「……うれしいな、それ」
ふたり、風に吹かれて目を細める。
〇夜・ゼミチャット・沙也香からの投稿
沙也香:テーマ名、正式決定しました。
『頼られる私、頼りたい私』
―“らしさ”を脱いだ先に、ほんとの関係がある―
拓海:すごくいいタイトル
瑠璃:泣いた(本当に)
渚:言葉の選び方が“らしくない”のが、逆に良い
智貴:認知構造の変容として価値が高い
咲子:今夜はみんなで甘いもの食べよう♡らしくいこう♡
〇エンドカット・キャンパスの一角・夕陽に染まる沙也香の後ろ姿
沙也香(モノローグ)
「“らしくある”って、誰のためだったんだろう。
ずっと背中に背負ってた仮面を、今やっと、下ろせた気がする。
不器用でも、涙があっても、
それを見せても大丈夫だと思える今の私が、いちばん私らしい――
そう思えるようになったから。」
タイトルロゴ:
『となりの研究室で、きみと。』
【To be continued...】
沙也香が1人で、設営用の資材リストを黙々とチェックしている。
疲れの滲む表情、けれど誰にも頼らず手を動かす。
咲子(手に飲み物を持って入ってくる)
「沙也香~、これ、差し入れ。ブラックとミルク、どっちが好き?」
沙也香(振り返り、作り笑顔)
「……どっちでもいいよ。ありがと」
咲子「じゃあ甘いやつね。疲れてるでしょ?」
沙也香「……別に、平気。慣れてるし」
咲子(目を細めてじっと見る)
「“平気なふり”、そろそろ疲れない?」
沙也香「……っ」
咲子「私、ずっとそれで倒れたから。わかるんだよ」
〇同じ頃・ゼミ教室・グループ会議
各自のテーマの次段階に向けた議論が進む中、
川口がふと全体に問いかける。
川口「“あなたの正しさ”は、誰が決めたものですか?」
一同、静まる。
川口「“自分らしさ”って言葉はよく出てくるけど、
その“らしさ”が、自分の首を絞めてないか。
そろそろ一度、解きほぐしてもいい時期なんじゃないかと思ってる」
瑠璃(静かに頷きながら)
「“らしくあろう”とするほど、“今”の自分が苦しくなる時って、あるよね」
智貴「……“自分を守るはずの枠”が、牢になることもある。定義は常に見直すべき」
拓海「……たぶん、沙也香がそれにぶつかってる」
〇仮設ルーム裏・沙也香と咲子の会話続き
沙也香「“頼れる人”でいるのが、私の“役目”だって思ってた。
期待されるのが当たり前で、いつの間にか“そうあるべき”になってた」
咲子「……でもね、“期待に応えること”と“自分を守ること”は別だよ」
沙也香「わかってるよ。でも、
“期待してもらえるうちが花”だって思うから――
応えられない自分が怖いんだよ……」
咲子(静かに)
「“応えられない日”があっても、私たちは沙也香の味方でいられるよ」
沙也香(肩を落とし、小さく)
「……そう思ってくれる人がいて、よかった」
咲子(にっこり)
「じゃあ今から、“らしさ”をやめる練習しよ?」
〇夜・沙也香の部屋・彼女が1人でノートを開く
ノートのメモ:
・頼れる人=私?
・期待に応える=“私らしさ”?
・“自分のため”の選択肢、どこにあったっけ
沙也香(心の声)
「“らしくあれ”って声を、自分の中にずっと響かせてきた。
でもそれが、自分の声じゃなかったら――もう手放しても、いいのかもしれない」
〇翌日・大学構内・プロジェクト定例ミーティング
各チームが次のサブテーマを提出する日。
沙也香は、自分のパートの紙を少しだけ震える手で掲示板に貼る。
【テーマ案】「頼られることの重さと、頼ることへの勇気」
教室が静まり返る。
だがすぐに、拍手が起こる。咲子が最初に手を叩き、拓海、瑠璃、そして全員が続く。
川口(うなずきながら)
「……いい視点だ。“役割”って言葉の裏にあるものを、ちゃんと見ようとしてる」
祐貴「“期待の構造”を明らかにするのは、社会全体の設計にも応用できる」
沙也香(小さく、安堵のため息)
咲子(隣でそっと囁く)
「やっと、自分の名前で話し始めたね」
沙也香「……うん、怖かったけど、出してみてよかった」
〇その日の夕方・仮設ルーム・沙也香と拓海が展示試作を行っている
展示内容は「あなたが“頼られている”と思った瞬間を書いてください」というもの。
壁には、匿名のメッセージが付箋で貼られていく。
拓海「これ……けっこうくるな。
“お姉ちゃんだから我慢してって言われた”とか、“聞き役ばっかり”とか」
沙也香「“頼られること”って、裏返すと“孤独”と似てるんだね」
拓海「……俺は、沙也香が頼られる姿をすごいって思ってた。
でも、そこに“寂しさ”があるなんて、気づけなかったよ」
沙也香(ふと笑い)
「それ、今聞けてよかった。
……“すごい人”って、時々すごく一人になるからさ」
拓海「じゃあ、今後はちゃんと手、伸ばすよ。
“支えてる風”じゃなくて、ほんとに隣に立つやつとして」
沙也香(少し目を潤ませながら)
「……うん。ありがとう」
〇夜・沙也香の部屋・机の上に新しいノート
彼女はそっと新しい表紙をめくる。
新しいノートのタイトル:
「“私らしく”の再定義ノート」
1ページ目に、彼女は書く。
・頼られる私も、頼る私も、どっちも“私”
・強さの中にある弱さを見せる勇気
・“完璧”じゃない関係が、いちばん優しい
沙也香(心の声)
「“私らしさ”は、私の中にある。
誰かの期待じゃなくて、自分で決めていい。
やっとそう思えるようになった――今なら」
〇展示会本番・「頼られることの重さ」ブース
沙也香と咲子が中心となって構成した展示が、
来場者にじわじわと反響を呼んでいる。
ブース中央には、こう書かれた垂れ幕。
「“しっかりしてるね”って言葉で、泣きたくなったことはありませんか?」
壁一面に、誰かの心の声が貼られている。
「いつも元気だと思われてるけど、ほんとは休みたかった」
「“ちゃんとしてる人”でいなきゃ、って勝手に思い込んでた」
来場者の反応(モブ)
「……これ、自分のことだと思った」
「“らしさ”って、背負わされると苦しいんだな……」
〇展示会終盤・沙也香が小学生くらいの女の子と話している
少女「わたし、よく“お姉ちゃんだから”って言われるの。泣いちゃダメって」
沙也香(しゃがんで目線を合わせる)
「泣いてもいいよ。強い人って、本当はいっぱい泣いてるから」
少女「……ほんと?」
沙也香「うん。泣いたあと、また立ち上がる人が“ほんとの強さ”だよ」
少女(にこっと笑う)
「……じゃあ、ちょっとだけ泣いてもいい?」
沙也香「もちろん。ここは、泣いてもいい場所だから」
少女が母親に抱きつき、沙也香はそっと見守る。
〇展示終了後・大学中庭・夕陽の中を歩く沙也香と咲子
咲子「……私、ずっと沙也香に憧れてたんだ。
何でもできて、頼られて、かっこよくて」
沙也香「でもそれって、“無理してる私”だったかも」
咲子「それでも、“かっこつける勇気”ってあると思う。
だけど今日の沙也香は、“かっこつけない勇気”がもっとすごかった」
沙也香「……うれしいな、それ」
ふたり、風に吹かれて目を細める。
〇夜・ゼミチャット・沙也香からの投稿
沙也香:テーマ名、正式決定しました。
『頼られる私、頼りたい私』
―“らしさ”を脱いだ先に、ほんとの関係がある―
拓海:すごくいいタイトル
瑠璃:泣いた(本当に)
渚:言葉の選び方が“らしくない”のが、逆に良い
智貴:認知構造の変容として価値が高い
咲子:今夜はみんなで甘いもの食べよう♡らしくいこう♡
〇エンドカット・キャンパスの一角・夕陽に染まる沙也香の後ろ姿
沙也香(モノローグ)
「“らしくある”って、誰のためだったんだろう。
ずっと背中に背負ってた仮面を、今やっと、下ろせた気がする。
不器用でも、涙があっても、
それを見せても大丈夫だと思える今の私が、いちばん私らしい――
そう思えるようになったから。」
タイトルロゴ:
『となりの研究室で、きみと。』
【To be continued...】



