「先程の男女は私の婚約者と姉なんです」
イザベルはウィリアムが息を呑むのが分かった。
事情を分かってもらえてありがたい反面、恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。
心情を誤魔化すように、イザベルはこほんと小さく咳払いをする。
「あの、これはお願いなのですが、先程の内容はバートラムさんの記憶から抹消すると約束してくれませんか?」
「記憶から抹消?」
「そうです。この醜聞を他の生徒たちに広められては困るので」
一匹狼のウィリアムが誰かに言いふらす可能性はかなり低いだろうが、言わない保障はどこにもない。だからイザベルは言質を取っておきたかった。
現状イザベルは学園内で悪女というレッテルを貼られている。そこに三角関係まで追加されるとなれば、立場はさらに悪くなる。
また、アデルの立場が悪くなれば両親は絶対に激怒し、真の被害者であるイザベルを責めるだろう。
(お父様たちに何か期待しても無駄よ。あの人たちはアデルが一番大切だから)
胸の上で手を重ね、考えを霧散させるようにふるふると頭を振る。
イザベルはウィリアムを一瞥した。
顔の半分が大きな眼鏡で覆われていて、何を考えているのか読み取れない。しかし、いつも誰とも連まず一匹狼を貫いているのだからきっと他人には興味がないはずだ。
(バートラムさんは早く研究に没頭したいだろうし、私のお願いを二つ返事で聞いてくださるわ)
イザベルがそう思った矢先、ウィリアムからは意外な言葉が返ってきた。
「さて。どうしようか?」



