侯爵令嬢のはずなのに、イザベルは小さい頃からアデルの世話役として働かされていた。

 身体の弱いアデルを不憫に思う両親は、イザベルが世話をするのは当然だと普段から口にしていた。というのも、両親はイザベルがお腹の中にいる時にアデルの健康を吸い取ったと信じているからだ。

(私が恵まれた体質で生まれてきたから、お父様もお母様もそう思うようになってしまったのよね)
 普通の人間と違い、イザベルは生まれながらにして魔力を保有している。
 目を閉じたイザベルは温かな光をイメージしてから再び目を開いた。するとそこには、眩い黄金の玉――光の精霊がふわふわと飛んでいる。

 精霊には水や火などの属性がいるらしいが、イザベルは光の精霊だけを呼び出せられた。言い伝えによれば、魔力を持つ人間は普通の人よりも精霊の庇護を受けやすい。

 だからこそ両親は、イザベルと比べて何も持っていないアデルが可哀想で仕方がなく、彼女の望むものは何でも与えた。
 甘やかされて育ったアデルは、自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。それが引き金となってさらに発作も起こす。発作を起こしたら何故かイザベルが両親から叱られ折檻された。

『アデルが可哀想でしょう? 何でも持っているあなたにはアデルの苦しみが分からないのね』
『おまえは姉さんの面倒をしっかり見ろ。それが妹としての務めだ』
 両親はいつもアデルの味方だった。

 だからロブとの縁談が回ってきた時は、希望を抱いた。彼と結婚すれば、イザベルはアデル中心の生活から解放される。ファロン家から出ていける。
 ロブは俺様気質で傲慢なところもあるけれど、この屋敷から出られる唯一の方法であり、救世主だった。
 ――けれど、その希望も今日で終わり。