「心配しないでお姉様。私とロブ様の婚約はエインズワース公爵のお力添えもあって無事に取り下げられたから。それとお姉様は既にロブ様の正式な婚約者になっているわよ。来月には挙式をするみたいだから、これから支度が大変ね」
「え?」
アデルは目を白黒させて口を半開きにしている。
イザベルはアデルを見つめ、紅色の目を細めた。
「お姉様が知らないのも無理はないけど、実は誓約書はもう一枚存在するの。うちは十二年前にお父様が投資に失敗して財政難に陥り、マクウェル伯爵に借金をしていた。負債すべてを払いきれないから、借金の半分を帳消しにする代わりに私たち双子のどちらかを嫁がせるという誓約を結んだのよ。だから姉妹のどちらかは絶対に嫁がなくてはいけない」
「はあっ!?」
アデルはか弱い自分を演じるのも忘れ、素っ頓狂な声を上げる。完全に寝耳に水だ。
この誓約書の話はイザベルも知らなかった。誓約書の取り下げ手続きをする際に発覚したことで、ルーシャンから教えてもらったのだ。
そして、もう一枚の誓約書の存在を知ったイザベルはやっと合点がいった。
これまでアデルの世話役としてイザベルが働かさられていたのは、屋敷の人件費を抑えるためだった。
また、アデルのために使っていたお金は母の花嫁道具や貴金属を売り、そこから工面していた。したがってイザベルに当てるお金はほとんどなく、いつも質の悪いものばかりだった。
両親は可哀想なアデルのためにいつも必死で動いて気た。今回の誓約書取り下げの経緯を公爵家の者が説明すると、二人はロブとアデルが相思相愛であると知って手放しで喜んだらしい。
「これで大好きなロブ様と結婚できますね」
「それは……」
何か言おうとしたアデルだったが、開きかけた口を噤む。その口もとは酷く歪んでいた。



