ルーシャンはイザベルの両頬に手を添えて言う。
『言っただろ、君の傷痕を治す薬を完成させたら迎えに行くって。あれはまだ有効だ』
『あれは子供の頃の話です。ルーシャン様はもっと相応しい女性と結婚すべきで……』
反論の言葉を遮るようにルーシャンがイザベルの唇に親指を押し当ててくる。
『あの時、イザベルの励ましがなければ今の俺はなかった。だから俺はイザベルしか選べない』
ルーシャンは真っ直ぐにイザベルを見つめ、はっきりと口にする。
『イザベル、君を想わなかった日はない。俺と結婚してくれ』
実直な言葉やその真剣な眼差しから、ルーシャンの告白が本気であるのが伝わってくる。イザベルは、これまで身近な人に真摯な態度をとられたことがなかった。
両親はいつもアデル優先。アデルやロブは自分勝手。誰もイザベルを大切に扱おうとしてくれなかった。
(お茶会の時からルーシャン様は私のために、諦めずに薬を作り続けてくれていた)
そんな人がいてくれただなんて、分かっただけで心が震える。
この十年以上、ずっと陰で想ってくれていたルーシャンに応えないわけにはいかない。
『はい、喜んでお受けいたします』
イザベルの返事を聞いたルーシャンは破顔した。彼の幸せそうな表情に思わずイザベルも頬が緩む。
『ところでイザベル。俺と一緒にあの二人へ意趣返ししないか?』
突然の提案にイザベルはきょとんとした表情をする。
ルーシャンの説明は簡潔だった。しかもその意趣返しに錬金術を使うというのだ。
イザベルは黙考した。現状は二人の方が優勢だ。けれど錬金術があれば、状況を打開できるかもしれない。
イザベルはルーシャンの話に乗り、卒業パーティーに向けて一緒に準備を始めた。



