『両親から錬金術なんてやめろと言われ続けてきた。唯一味方になってくれたのは隣国に住む祖父、そして君だけだった。あの時お茶会で泣いていたのは、同年代の子供に気味悪がられて本を捨てられたから。でも、君が励ましてくれたお陰で俺は錬金術を続けられた』
 ルーシャンは机の上にあった薬の瓶をイザベルに差し出した。中の液体は蜂蜜色をしている。

『イザベル、約束の傷痕を治す薬だ。これを完成させるには光の精霊の癒やしの力が必要だった。だから俺は、また君に救われた』
 ルーシャン曰く、個人の保有する魔力の質によって好かれる精霊の属性が違う。ルーシャンは光の精霊以外は呼び寄せられる。その中でも特に水の精霊に好かれていた。
 水の精霊の力は湿布や痛み止めの薬を作るのに向いていて、肝心の傷痕を治すのには向いていなかったらしい。

 イザベルはルーシャンから完成した薬を受け取る。
 蜂蜜色をした薬をじっと眺めた後、一気に飲み干した。
 少し時間を置いてから背中に手を回してみる。触るだけでも感じていた傷痕の膨らみは消えていて、イザベルは嬉しくて泣きそうになった。

『ありがとうございます。これでロブ様に婚約破棄されてもまだ次がありそうです』
『悪いが次はない』
 何故かルーシャンに即否定されてしまった。
 いつの間にかルーシャンに距離を詰められていたらしく、彼の顔が目と鼻の先にある。