残されたイザベルは俯いてこめかみに手を当てた。
「疲れた」
誰に言うでもない呟きは部屋の静寂に溶けていく。
ロブとの婚約はイザベルが七歳の時に決まった。彼の実家であるマクウェル伯爵家は伯爵家の中でも由緒正しく、かなりの資産があると言われている。
イザベル達の実家ファロン侯爵家とも引けを取らない。
もともとこの縁談に名前が上がっていたのは姉のアデルだったが、病弱なためにイザベルに話が回ってきた。
この件についてはアデルも承知していた。だからこそイザベルはアデルの軽薄な行動が理解できなかった。
そもそもイザベルはロブとキスや抱擁はおろか、手も繋いでいない。
(お姉様もそうだけど、ロブ様もロブ様だわ)
二人に失望したイザベルはため息を吐いた。
(というか、悪いのは二人なのにどうして私が責められないといけないの? 結局、お姉様の発作のせいで謝罪もされなかった。……いつものお決まりパターンね)
イザベルの人生は物心ついた頃から、身体の弱いアデルを中心に回っていた。
侯爵家にいる時も学園生活をしている今も、イザベルは身体の弱いアデルにつきっきりで面倒を見ている。これまで一日でも自由に使える時間を持ったことはない。
本来なら世話役の侍女を付ければいいのだが、何故かその役をイザベルが担っている。



