何故なら、ウィリアムの手が懐に入っていたから。
「それなら俺が素直になれるよう手伝ってやる」
 ウィリアムは小さな香水瓶を取り出し、中身をロブに吹きかけた。
「何をするんだバートラム!」
 突然攻撃を受けたロブは抗議するが、すぐにそれもできなくなる。
「今吹きかけたのは俺が錬金術で作った自白薬だ。質問には嘘偽りなく答えてしまう。さてマクウェル、君はアデル嬢と浮気をしているな?」

 唐突な質問にロブは一瞬動揺するが、すぐにいつもの調子に戻る。首を横に振り、否定するために口を開いた。
「そうだ、浮気している……っ!?」
「いつから? イザベルは愛しているか?」
「半、年前っ、これっぽっちも、愛していな、い」

 ロブは慌てて口を手で塞ぐが無駄だった。唇を必死に噛み締めても声は漏れ出てしまう。
「イザベルの悪い噂を流していたのは、アデル嬢と婚約するためか?」
「っ、そうだ。素行の悪い女だと分かれば、両親も誓約書を取り下げてくれる」

 ロブの話を聞いていた生徒たちは、イザベルの背中に傷がないことや浮気の暴露、悪女の噂を流していたのが彼だと知って一気に軽蔑し始める。もちろん、妹の婚約者に手を出したアデルも同罪だ。

 アデルは俯いて身体を小刻みに震わせていた。その間にもロブが弁解しようと口を開く。
「俺はっ」
「何も言わない方がいい。自白薬は一日中効果が続く。取り繕おうとしたって真実しか話せない」
 顔を青くして冷や汗を掻くロブ。何を言っても無駄と分かり、完全に反抗心は削がれたようだ。
 イザベルはロブの前に立ち、胸に手を当てる。
「ロブ様、あなたの婚約破棄は謹んでお受けします。もう赤の他人ですので、こうやって話す機会は金輪際ないでしょう。さようなら」
 イザベルが別れの挨拶をすると、ウィリアムが手を差し出してきた。