アデルの発言を遮るように、誰かが大声で叫ぶ。声がしたのは入り口の方からだ。アデルが顔を動かすと、そこにいたのは根暗鴉ことウィリアムだった。
普段ボサボサの髪は綺麗に整えられ、白の正装に身を包んでいる。意外な人物の申し入れにアデルとロブ、それから周りにいた生徒たちが困惑した。
ロブがこちらにやって来たウィリアムに尋ねる。
「バートラム、正気か? この悪女は傷物だぞ?」
「本気だ。それとイザベルに傷なんてない」
「ハッ。見たこともないくせに」
ロブが小馬鹿にした態度で笑う。すると、これまで黙っていたイザベルが口を開いた。
「それならあなたも見たことありませんよね? そもそも、私の背中の傷を家族が見たのはもう十年も前の話です」
イザベルは近くにいた生徒に扇子を渡し、くるりと背を向けてボレロの留め具を外していく。外し終えたボレロがしゅるりと床に落ちる。
ぱっくり開いたドレスから覗く背中には、傷なんてどこにもなかった。あるのは陶器のように滑らかな肌。
「家族もロブ様も私に興味がなかったので申し上げませんでしたけど、私の背中に傷はありません。少し前に治っていました」
向き直ったイザベルが事実を口にすると、ロブが喫驚する。
「傷がないだど? なんで言わなかった?」
「訊かれなかったので興味がないのかと」
「俺はずっと心配していたんだぞ。貴様が素直に話してくれていればこんな風には……」
眉尻を下げたロブは額に手を当てる。
事実を話さなかったイザベルに非があるよう、ロブは遠回しに聴衆を誘導している。このような結果を招いた原因はイザベルだと言わんばかりだ。
だが、その茶番も終わりだ。



