「はあ、ルーシャン様がいてくれたら私の学生生活は完璧だったのに。ロブ様を誑かしたのはただの気まぐれだったけど、イザベルの苦しむ顔が最っ高に楽しかったから良しとするわ」
 卒業パーティーでイザベルに婚約破棄を突きつけた後、ロブからの婚約を申し込まれるだろうが、もちろん拒絶するつもりだ。

(何かの行き違いだったって説明すればお父様も納得してくれる。いつもみたいに私の主張を通してくれるわ。それに家格はうちが上だし。向こうは泣き寝入りするしかないわね)
 あくまでもアデルの本命はルーシャンで、彼と結婚するのが人生の目標。
 ロブなんかと結婚なんてあり得ない。自分の人生が台無しになる。

「まっ、今は一週間後のパーティーが楽しみ。イザベルはどんな顔をしてくれるかしら?」
 ニヤニヤと笑っていると、扉を叩く音がする。
「今開けます」
 イザベルはいつものか弱く儚げな表情を作った。両親やイザベルの前ですら本性を見せないよう徹底している。

 外を確認すると、寮母が実家からだと小包を持ってきてくれた。
 小包の中は香水が入っていた。試香してみたら、甘くも爽やかな香りがする。自分好みのいい香りだ。
「素敵な香り。気に入ったわ。毎日つけましょう」
 イザベルはその日から香水を愛用した。