たまには同年代と交流するのも悪くないと思ったアデルは参加すると返事をした。
この時のアデルはこのお茶会で人生が変わるとは思ってもいなかった。そして会場に着いたアデルは出会ってしまった。
自分の理想すべてを詰め込んだ完璧な容姿の少年――ルーシャン・エインズワース公爵令息に。
将来を約束された顔立ちはどの角度から見ても精巧な彫像のように美しい。歩くたびに揺れる髪は栗色で、湖を思わせる青い瞳には強い光が宿り目が離せない。
アデルは一瞬で恋に落ちた。
(私はルーシャン様と結婚する。どうやったらお近づきになれるかしら)
ルーシャンと会うのは今日が初めてだ。これまで一度も交流はない。どうにかして関係を築かなければ。
(そういえば、ここの玄関ホールの階段は急だったわね。あそこで転んで怪我をすれば、彼は私を覚えてくれるかも。それでお見舞いや手紙のやり取りが始まって……)
想像を巡らせてにんまりと笑みを浮かべるアデルは、即行動に出た。目的の玄関ホールに人通りはなく、最高のタイミングだった。
アデルは階段を登る。二階から落ちて本当に大怪我をしては本末転倒なので、踊り場から落ちると決めた。踊り場までの階段を登り切り、そのまま倒れるようにして身を投げる。
けれど、階段から落ちていく最中に背後から声がした。
『危ない!』
(イザベル!?)
声の主が誰なのか察したアデルは後ろを振り返る。背後には数段階段を登り、両手を広げるイザベルがいた。
イザベルは倒れてくるアデルを守るように抱き締め、一緒に転がり落ちる。
誰かの悲鳴が聞こえた後、全身に鈍い衝撃を受けた。近くで陶器の割れた音がする。
『大丈夫?』
耳元でこちらを気遣うイザベルの声が聞こえる。



