「抱き合ってキスまでしていたのに?」
 頬に掛かっていた金褐色の髪を耳に掛け、イザベルは紅色の瞳をスッと細める。
 嘘がバレたアデルは顔を青くし、ロブは言葉を詰まらせた。
 一部始終を見られていたなど、二人は想像もしていなかったのだろう。だが、往生際の悪いアデルは否定した。

「違うのよ、私たちは……」
「不貞を働いていたのに何が違うの?」
 イザベルは言葉を遮って問い詰める。
 アデルは口元に手を置き、まごつきながらも弁解した。
「私は恋愛がどんなものか知りたくて。ロブ様なら、教えてくれるかもって」
「それで実践してもらってたってこと?」
「そ、それはっ…………あぁっ!」
 突然アデルが胸を押さえて苦しみだす――発作だ。アデルはその場に蹲ってしまった。

「お姉様!?」
「アデル!?」
 イザベルと同時に声を上げたロブは蹲るアデルの隣で膝をつき、背中を摩る。
「うぅ、くる、しぃっ……」
「イザベル、貴様のせいでアデルの発作が出てしまったじゃないか!」
 声を荒らげるロブは鼻面に皺を寄せ、イザベルを睨め付けた。

「アデルの身体が弱いのは貴様も知っているだろう。それなのになんで精神的に追い詰めて苦しめるんだ? 今すぐ謝れ!」
 それを言うならイザベルだって精神的に追い詰められ、苦しめられている。

 婚約者が浮気していたのだ。実の姉と。


 アデルが発作を起こしてしまったのは可哀想だが、もとはと言えば二人に原因がある。
 何故ここでイザベルが責められ、謝らなくてはいけないのだろうか。ショックで何も言えないでいたら、アデルが弱々しい声で言う。

「ロブ様、イザベルを責めないで。私は大丈夫、だから……」
 アデルは肩で息をしながら、隣にいるロブの服の裾を掴む。
 ロブはその健気な姿に眉尻を下げ、アデルの頭を優しく撫でた。

「大丈夫なわけないだろ。すぐ医務室へ連れていく。少し我慢してくれ」
 アデルの腕を自分の肩に回したロブは、お姫様抱っこをして立ち上がる。そして、すれ違いざまにイザベルへ捨て台詞を吐いた。

「おまえは噂通りの悪女だな。まったく、貴様のような女と結婚しなきゃいけないこっちの身にもなれ。そして、アデルの優しさに感謝しろ!!」
 バタン、と勢いよく扉が閉められる。