身体の弱いアデルを不憫に思った乳母が、せめて外の世界を味わえるようにと毎日白花の花束を届けてくれていたのだ。
白花が大好きな乳母はアデルにもその花を愛でて欲しいと口にしていた。だが、その思いやりのせいでアレルギーに苦しめられる日々は続いた。
アデルが七歳の時、乳母は目が悪くなったのを理由に屋敷を辞めていった。
こうして彼女が去り、白花が届けられなくなって一週間後。アデルは息苦しさも発作も起こらないことに気づいた。
原因を知ったアデルは震えた。それは、乳母が知らず知らずのうちに自分を殺そうとしたからではない。
自分中心の世界が崩壊するかもしれないという危機感に恐怖を覚えたからだ。
これまで病弱を理由に、アデルはイザベルを召使いのように扱ってきた。健康になったらそれができなくなる。
何よりもイザベルと比べられ、万が一にも立場が逆転したらと思うとゾッとした。
(イザベルは召使いで私の引き立て役に過ぎないの。双子の妹として生まれてきただけでも厚かましいのに。あんな子にお父様たちの関心を持っていかれるなんて絶対イヤ!)
アデルは病弱で可哀想な自分を演じ続けるために、皆に隠れて白花アレルギーの研究をした。どれくらいの量を摂取すれば息苦しくなって発作が起こるのか徹底的に調べた。
その結果、花を一つ食べれば発作が出ると分かった。
時を同じくして、アデルとイザベル宛にエインズワース公爵家からお茶会の招待状が届いた。



