浮気現場に遭遇して、イザベルが婚約破棄を切り出せなかった真の理由は、イザベルが傷物になり両家が王家を通して誓約書を交わしたからだった。

 誓約書の内容として、マクウェル家はイザベルの醜い傷を理由に婚約破棄をしないこと。一方のファロン家は、この誓約書がある限り婚約破棄をしないというものだ。
 要するに、マクウェル家側は醜い傷以外の理由では婚約破棄ができるが、ファロン家側はどんな理由があろうと婚約破棄できない。

「あいつは学園の誰もが知る悪女。最近は俺が流した噂も追加されて男漁りの激しい悪女になっている。王家が調査に入ったところで、皆が噂についてあたかも真実かのように話すだろう」
「あらロブ様ったら人が悪い」
 イザベルは、ロブにまで悪い噂を流されていたなんて思ってもいなかった。

 身近な人たちに裏切られ、もう誰を信じていいか分からない。
 アデルは妹が不幸になろうと自分の幸せのためならどうでも良いらしい。現に楽しそうに笑っている。
 イザベルは幼い時から献身的にアデルの面倒を見て支えてきた。
 背中に傷はあるけれど、ロブの相応しい婚約者になろうと努力してきたつもりだ。
 真剣に向き合ってきた二人にここまでぞんざいに扱われるなんて、憤りを通り越して虚しい。

「アデルと婚約し直せるならどんな手段だって使う。そうだ、一週間後の卒業パーティーであいつを糾弾して婚約破棄してやろう。全生徒が証人となり、俺たちは晴れて本物の婚約者になれるぞ!」
「きゃっ、それはとても楽しみだわ!」
 イザベルはキュッと唇を引き結び、逃げるようにその場から離れた。