泡沫ユートピア

「このケーキ、美味しい!」
真依ちゃんがうっとりとした表情で呟くのを横に、私も目の前のいちごタルトに手を伸ばす。
一口食べた途端、爽やかな酸味と甘みが広がった。
「美味しい!」
あまりの美味しさに、目を輝かす。
「やっぱりこの店にして良かったね」
「うん。めちゃくちゃ美味しい!!」
そこで突然、真依ちゃんが思い出したように言う。
「そうだ、未来は占いって信じる?」
「占い?」
星占いとか血液占いのようなものだろうか。まさか本当の占いじゃないだろうし、、、。
私はなんて答えるべきなのか分からずにいると、真依ちゃんは話し出した。
「私は行ったことはないんだけどね、四葉町に有名な占いの館があるんだって〜」
「へ、へぇ〜、、、」
四葉町、私の実家がある地域だ。そしてその地域で有名な占いの館なんて、一つしかない。
「ちなみに、名前は、、、」
違っていますようにと心の中で願う。
「占いの館『アラタカ』」
その名前を聞いた瞬間、ダラダラと冷や汗が流れ出た。手汗が滲む。
桜井家が代々管理する館。つまり―――悠くんと蓮くんの実家になる。
当主はまだ、二人のお父さんだが、ここで行けば何て言われるか分かったもんじゃない。あのお父さんの性格上、絶対に何かやらかす。
私の立場上、小さい頃から両親に『当主様と呼びなさい』と言われ続けているが、呼び名が変わることはなかったので、今では私が『桜井のお父さん』と呼んでも両親は何も言わなくなった。
「週末、行ってみない!?」
そんなことを思い出していると、真依ちゃんが恐ろしいことをさらりと言った。
「、、、ちょっと無理かも、、、金欠だし」
「そっか〜、、、なら私も行くの止めようかな」
「ごめんね」
「全然良いよ〜」
良かった、、、占い回避出来た、、、。
食べかけのいちごタルトを口に運ぶ。
「というか、未来ってどっちが好きなの?」
「、、、へ?」
待って、どっちって言うのは、、、?
「だってー、あんなイケメン双子と四六時中一緒にいたら、どっちか好きになっちゃうでしょー?せめて、推しとかいないの?」
「な、ないよっ!二人とも大切な幼馴染だから」
「本当に〜?」
焦って否定する私に、疑うような目を向けてくる真依ちゃん。
「でも、二人は絶対未来のこと好きだよね」
「え、、、そうなの!?」
驚いたように言葉を発すると、真依ちゃんは「あの二人も可哀想、、、」と頭を抱えた。
「いや〜、どっちが隣にいてもお似合いだと思うけどな〜。未来って女の私から見ても普通に可愛いと思いうし」
「あ、ありがとう?」
「もし、どっちかと良い関係になったら、教えてね!あと、未来の結婚式は友人代行でスピーチするから!」
更にはそんなことを言うもんだから、訳もなく恥ずかしいような、照れくさいような気持ちになってしまった。