泡沫ユートピア

「未来に告白!?」
同じクラスの田中に真剣な話をするからと呼び出されたかと思えば「未来に告白する」と言うのだ。
なぜ俺にしたのかと言うと、仲良さそうだかららしい。
その発言に驚いて、つい飲みかけの紙パックのコーヒー牛乳を握りしめた。ベコッと音が鳴る。
「どうすれば良いのか分からなくてさ、、、未来ちゃんの好きな食べ物を教えてほしいんだ」
デートの参考にでもするつもりなのか、好きな食べ物や好きなタイプなど多数寄せられた。
「お前が、、、未来と付き合う?」
試しに頭の中で、コイツの隣に未来を並べてみる。胃がムカムカしてきた。
「お前が未来を幸せに出来るとは思えない」
しかめっ面で答えると、隣で話を聞いていた佐藤が吹き出した。
「親父かよ!」
父さんみたいに威勢の良いノリツッコミだった。けれども今はそれに構っていられない。
告白がしたいと言ってきた田中は口を半開きにして固まっている。
本当は協力なんてするつもりなんてなかったが、土下座しながら「お願いします!」と言ってきたので乗り気はしないが、好きな食べ物と美味い店を教えてやった。
以前、未来と蓮斗と行って「美味しかった!」と言っていたので間違いないだろう。
その後、手紙を渡してくれ〜と頼まれたが、俺に手紙を渡せばシュレッターの如く破り捨てる自信があるが、どうしてもと頼まれたので一応、受け取っておいた。
(恋人、、、か)
いまいち想像出来ない。自分が未来の隣にいる姿は容易に想像つくのに。

「ただいま」
「おかえり〜、悠くん」
キッチンから未来の声が聞こえる。早く着替えて手伝わないと。
「悠斗、どうしたの?」
こういう時の蓮斗は鋭い。
「、、、いや、何でもない」
未来と顔合わせるのが気まずくて、その日は話さなかった。


最近、悠くんの様子が可笑しい。
帰ってくるなり、逃げられた。いや、避けられたと言うべきだろうか。悠くんを怒らせるようなことは何もしていないので、何故こんなことになっているのか分からない。
様子を見に行ったら手紙を渡されて、そのまま部屋を追い出された、のが今の現状。
白い封筒に猫のシール。裏には未来ちゃんへと書かれていた。差出人の名前はない。内容が気になったので、廊下で手紙を読み始める。
『未来ちゃんへ、突然の手紙に驚いたことでしょう。初めて貴方を見た日、先生に頼まれた荷物を一生懸命運んでいました。そんな姿に僕は心打たれ、ずっと見てきました。次第に貴方に惹かれるようになりました。そんな訳で、悠斗を通してこの手紙を送らせて頂きました。今週の金曜日、体育館裏で待っています』
これは、いわゆるラブレターというやつ、、、だよね。
(どうしよう、、、)
とはいえ、返事は決まっている。が、それを伝える手段がない。手紙の差出人は書かれていなかったし、そんな怪しげな呼び出しに応じるのも少し怖い。
自室に戻り、ノートの最後のページを二枚破る。レターセットなんて女の子らしい物は持ち合わせていなかったし、多分実家にもない。
筆箱からシャーペンを取り出し、手紙を書く。
小学校の時に悠くんと蓮くんに書いて以来だな〜、なんて思いながらペンを走らせていると、すぐに終わってしまった。
紙を折り紙のように折って、折り込んで、少し不格好だが手紙の完成。
差出人が誰だか分からない以上、悠くんに渡して貰うしか他ない。
(まぁ、良いや。明日渡そう)


翌日、未来から手紙を受け取って、田中に渡す。手紙を確認する田中をドキドキしながら見守っていた。
(何て、、、書いてあるんだろうか)
やがて、田中は手紙から顔を上げて顔を突っ伏した。
「やっぱり、駄目だったか―――」
田中は「そうか、うん。やっぱりそうだよな」などと独り言を呟いている。
(えっと、つまり、、、)
未来は告白を受けなかったのだ。
田中には悪いと思いながらも、心の何処かで「良かった、、、」なんて思っている。
「悠斗の大切な幼馴染が嫁に行かなくて良かったな」
佐藤が面白そうに言ってくる。
「まだ嫁じゃない」
「まだ!?」
田中と佐藤が反応する。
、、、とりあえず、二人には購買で何か買って黙らせておくか。