てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「――……っ」

 鳴神の顔が近づいてくる。
 
 視界いっぱいに広がったレモンイエローに目が眩む。
 
 きゅっとつぶった瞼の裏は燃えるように赤かった。
 
 どくんどくんと体の中で心臓が暴れている。

 
 鳴神に掴まれた手首から、私の鼓動はきっと伝わってしまう。

 バレたら恥ずかしい。
 
 でも鳴神ならお見通しな気もする。
 
 私はどうしたいんだろう。自分で自分の気持ちがわからない。

 
 鳴神ならわかるのかな。

 
 ねえ、鳴神。教えて――
 

 
 ガブッ


 
「………………へ?」

 その瞬間、背中にぶつけた時よりも、もっと確かな痛みが鼻先を貫いた。
 
 思わず見開いた視界でレモンイエローが悪戯っぽく細められる。
 
 鳴神の温もりが、顎から、手首から離れていく。
 
「なんだその顔。キスされるとでも思ったのか?」
 
「え、あ……わ、わあああ!?」

 
 騙された!
 キスじゃない。鼻を噛まれた!

 
 パニックになって暴れる私を高みの見物とばかりに見下ろした鳴神は、とどめとばかりに「ばーか」と言ってのけた。
 
「朝っぱらから晴人たちとイチャついて遅刻しそうだったからよ。喝を入れてやったんだ。どーだ? 目が覚めただろ」
 
「な、な、なるかみ……!!」

 イチャついてない、とか思わせぶりなことしないで! とか言いたいことは山ほどあるのに言葉が出てこない。
 
「ほら、さっさと歩かねぇと本気で遅刻するぜ? お前、ただでさえ男4人と同棲してるヤベー奴って噂になってるのに、ここでンな真っ赤な顔して遅刻してきたらどんな尾ひれがつくかわかんねえぞ?」
 
「や、ヤバいやつじゃないし!」
 
「はいはい」

 鳴神は後ろ歩きでとんとんと足踏みしている。いつでも走り出せる準備は万端らしい。

「もう、鳴神にはいつも振り回されてばっかり……」
 
「いいじゃねーか。つまんねー日常よりよっぽど退屈せずに済むだろ。だから――」

 鳴神はそのまま走り出すのかと思いきや、勢いをつけて私に顔を寄せる。
 
 さっきまでの距離の再現に、一瞬呼吸が止まった。

 
「もっと俺のことだけ考えてろよ、ななみ」

 
 それだけ言い残してパッと離れた鳴神は、助走をつけて駆け抜けて行った。
 
 そこでようやく鳴神の放電が途切れたのか、晴人たちが追いついてくる。
 
「鳴神、相変わらず速いなー」
 
「ななみさん、どうしました?」
 
「……か、顔が赤い……ですよ」

 3人が何か話しかけてくれているみたいだけど、何も耳に入ってこない。

 
 鳴神ってやっぱり自分勝手で、ものすごい速さで私の中を駆けて行って、意地悪で……

 
 でも、嫌いになれない。

 
 どうしよう。
 
 鳴神のことしか考えられない。
 
 こんなの、鳴神の思うツボで悔しいのに。

 
「……ばーか」

 
 鳴神の口調を真似て、そう言ってみる。
 
 言葉通りの意味とは違う温もりが、噛まれた鼻にじんと響いた。