てるてる坊主を作っただけなのに、お天気男子の溺愛が止まらないのですが!

「え?」
 
 顔を上げると、こちらを見下ろした時雨さんの美しい髪がひと房、さらさらと雨のようにきらめきながら彼の肩を滑り落ちる。
 
「わたくしには抱きついてくださらないのですか?」
 
「え……」
 
「わたくしもこの雨の立役者のひとり。ななみさんの抱擁を受けられる権利があると思うのです。それを鳴神くんばかりに向けられては……いささか、嫉妬してしまいそうです」
 
 眉を八の字に寄せて、切なげに私を見つめてくる時雨さんの瞳が悲しげに潤んでいる。
 
 ど、どうしよう。
 時雨さんにもあのハグをするべき?
 
 でも先生にはさっさと教室に入れって言われたし。
 あの時はテンションマックスだったから何にも考えずに鳴神に抱きついちゃったけど、今、冷静に考えたらものすごーく恥ずかしいことした自覚はあるし……
 でも時雨さんが悲しそうなのは私のせいだし……
 
「あ、あ、あの」
 
「はい」
 
 にっこりと微笑んだ時雨さんは私を待っている。
 
「し、時雨さんはどうして私に抱きついて欲しいんですか」
 
「おや」
 
 そこで時雨さんはさも意外だというふうに目を丸くした。
 
「わたくしから言わせるとは、ななみさんもなかなかに意地悪なひとだ」
 
「い、意地悪って――」
 
「ああ、お気を害されたなら失礼を。そうですね……駆け引き上手、とでも言い換えましょう」
 
 
 駆け引き?
 ただの疑問を口にしただけなのに。
 それがどうして駆け引きになるんだろう。
 
 
「えっと……」
 
 こういう時、なんて答えればいいんだろうか。
 それこそ駆け引き上手なひとなら、すぐにカッコイイセリフが出てきそうなものだけど……
 残念ながら、私はそういうタイプではなさそうだ。
 
「し、時雨さん……! ななみさんが、困っています」
 
 私と時雨さんの間に割って入ったのは八雲くんだった。
 普段のおどおどした雰囲気が少し凛々しくなってる? みたいに見える。
 
「おや、雲に止められては雨は降れそうにないね」
 
「お、押しとどめるだけが精一杯ですけど……」
 
 八雲くんは私の手首を掴むと「すみません」と言いつつ、後ろのドアから教室へと押し込むように連れて行ってくれた。
 
「あの……僕らは転校生ということになっているので、後で合流しましょう。詳しい話はその時に」
 
「う、うん。ありがとう」
 
 八雲くんは頷いてまた廊下に出た。きっと4人で打ち合わせることがあるのだろう。