数時間後。
本をぱたん、と閉じた私は、その世界の余韻が抜けなかった。
「すっごく、いいお話だった……」
主人公は二人の男の子。
それぞれにタイプは違うけれど、夢みるものは同じ。
そんな二人が、ときにけんかや挫折もしながら、各々一本の小説を書きあげる。
「ゆき!この本、すっごくよかったよ!ちょっとスポーツものっぽい、熱い描写もあるんだけど、それがまた二人のがんばりがひしひしと伝わってくるようで!」
すみれとゆきは、私の話を聞いているみたいに耳を澄ましてくれている。
陽毬ちゃんが引っ越してしまってから、こうして本の感想を聞いてくれるのは、すみれとゆきだけだった。
「二人の男の子もタイプは違うんだけど、すごくかっこよくて!女の子が読んだら、きっとどっち派?なんて分かれると思う!すみれとゆきは、どっち派!?」
なんて聞いても、「にゃあ…」と困ったように鳴くだけで、二匹の気持ちは分からない。
「すみれとゆきと、ふつうに会話できればいいのになぁ。ふたりが人間だったら、どんなタイプの子になるのかなぁ……」
動物とおしゃべりできたら、とか、動物が人間の姿になったら、なんて考え出すときりがないくらい楽しくなっちゃうよね!
そう妄想にふけりそうになっていると、カーテンのすき間から見える夜空が、一瞬キラッと光ったような気がした。
「え?もしかして流れ星?」
あわててカーテンを開けると、またキラッと星が流れた。
「すみれ!ゆき!見た!?」
興奮して夜空をながめる私。
二匹もととと、と軽やかに窓辺にやってきた。
流れ星……。
祈ったら、本当に願いを叶えてくれるのかな……?
私も小説家に………。
けれど結局、願い事を口に出すことはできなかった。
「おやすみなさい、すみれ、ゆき」



