それからは、陽毬ちゃんとこうして文通している。
今時スマホでの連絡でないのは、そっちのほうが小説家っぽいから、という陽毬ちゃんの提案だった。
陽毬ちゃんは半年前、小説のコンテストであっという間に大賞を受賞し、中学一年生にして小説家としてデビューしてしまった。
私が自分の夢もはっきり口にできず、うじうじしている間に、陽毬ちゃんは夢を叶えたのだ。
私は陽毬ちゃんからの手紙を開けることなく、そっと机の中にしまった。
なんだかなにも行動できていない自分が情けなく思えて、今は陽毬ちゃんからのお手紙を読む気になれなかった。
後ろからゆきが小さく「にゃあ…」と鳴いた。
「あ、ごめんね、今そっちに行くね」
私は今日図書室から借りた一冊の本を手に、ベッドに戻ってくる。
「ゆき、今日はこの本だよ」
ゆきに文庫本の表紙を見せる。
タイトルは、『きみの夢、ぼくの夢』。
今日はなにを借りようかと図書室で悩んでいた私に、司書の先生がおすすめしてくれた本だった。
「どんなお話なんだろう?」
私は文庫本をくるっと回して、裏表紙のあらすじに目を通す。
「あ……」
あらすじを読み終わった私は、思わず声をもらしてしまった。
『これは主人公とその親友がともに切磋琢磨し、小説家を目指していく青春ストーリーである。』
あらすじはそう締めくくられていた。
「小説家を目指すお話なんだ……」
それはまさに私と陽毬ちゃんのようで、なんて思うことすらおこがましいのかもしれないけれど……。
私はもう一度表紙を見て、そうしてゆっくりページをめくりはじめた。



