それからもいくつかすみれとそら、ゆきにも協力してもらって、胸キュンシーンを体験させてもらった。
「どう?なにか小説の参考になった?」
ノートとにらめっこしていた私は、ゆきの声に顔を上げる。
「うーん…、どうなんだろう?」
みんなに協力してもらって胸キュンを感じられたけれど、これをまた文章にしていくのも難しい。
「桃花、」
「うん?なあに、ゆき」
「試してみて、その体験をどう感じるかを知るのも大事だけれど、日々を過ごす中で何気なく感じる気持ちも大事だと思うよ」
「え…?」
「こうやってみんなで試行錯誤する時間に感じる気持ち、普段歩いていて見上げた空に感じる気持ち。そういうちょっとした気持ちも、小説には大切なんじゃないかな?」
「な、なるほど…!」
ゆきの言葉に、私はうんうんうなずく。
そっか、普段何気なく過ごしているこの時間に感じる気持ち、かぁ。
「ゆき、すごいね!たしかにその通りかも!」
ゆきは穏やかに微笑む。
「僕だって桃花と一緒になって本を読んでいるからね」
「そっか!そうだよね」
ねこだったゆきは私が本を読んでいると必ず寄ってきてくれて、私が本を読んでいる間中、そばにいてくれていた。
やっぱりゆきも一緒に本を読んでいたんだね。
「だから、桃花がこれから経験するいろんなことが、きっと桃花の小説を助けてくれるよ」
「うん…!ありがとう…!」
ゆきからもらった言葉も大切にメモして、その日の胸キュン体験会はお開きとなった。



