そんなわけで放課後。
私たちはよく少女漫画で見る、胸キュンシーンを再現してみることにした。
「じゃあいくぞーー!」
「いいよー!」
廊下の端から手を振るそらに、私は腕で大きく丸を作る。
廊下からやってくるそらと、教室から出てきた私が、あわやぶつかりそう…!
というシーンを試してみることにした。
本当にぶつかったりしたら危ないから、そこはぶつかりそう、ってところで止まる予定だ。
私の好きな恋愛小説、『恋がはじまる日』でも、ヒロインとヒーローの出会いは桜並木の曲がり角だった。
ベタだけれど、なんだかんだ私はこういう展開が好きで、一度経験もしてみたかったんだ!
私の隣ですみれが腕を組んで怪訝そうにしている。
更にその隣ではゆきがにこにこして見守ってくれている。
ゆきにも小説のネタになるようなことを体験したり、探したいんだって話をしたら、すんなり協力すると言ってくれた。
「桃花の力になれるならなんでも言って」
なんて王子様みたいな笑顔で言われて、もうそれだけでなんだかキュンを感じた気がした。
廊下からぱたぱたと足音が聞こえて、そらがやってくる。
そろそろかな、と思い、私も教室から廊下に出ようとして……。
「わっ!」
ぶつかる寸前で止まるはずが、本当にそらの胸にぶつかっちゃった!
体勢を崩してしまった私を、そらはぱっと支えてくれる。
「大丈夫か!?桃花!」
そらの顔が目の前にあって、それだけで私はドキッとしてしまう。
その爽やかな顔に少し心配の色をにじませて、そらは私を見ていた。
「う、うん!大丈夫っ!」
そらの手を借りて、私は体勢を立て直した。
……なんかちょっと、キュンとしたかも…?
恋愛小説や漫画のヒロインの女の子って、こんな気持ちだったのかなぁ…?
今感じた気持ちを、私は急いでノートにメモする。
「おい、そら。桃花に怪我があったらどうするんだ」



