「へえ!すげーな!小説!?桃花っていつも本持ってたけど、やっぱり本好きなんだなー」
そらの家の前を通りかかるとき、たしかにいつも本を小脇に抱えてたかも。
「で、恋する気持ちに悩んでるんだと」
すみれが簡単に説明する。
「恋かー!それならおれが適任じゃね?」
「どこがだ」
そらの言葉にすかさずすみれのツッコミが入る。
「おれ、桃花のことめっちゃ好きだし、参考にならないかなーって!」
男の子の姿のそらに「好き」、だなんて直接言われて、私の胸がドキッと高鳴る。
……ん?もしかして……。
「参考に…、なるかも……!!」
私の言葉に、すみれは怪訝そうな、そらはにっと笑う。
「だろ!?」
「いや桃花、考え直せ。こんななにも考えていないようなやつの、なにを参考にするって言うんだ」
すみれが不機嫌そうに私をにらんでくる。
「私って、あまり男の子とおしゃべりしたことがなくて…」
隣の席になったり、係りが一緒になったりしたときも必要以上におしゃべりしたことはなかった。
だからお友達、と呼べるような男の子はいなかったんだ。
そもそも本の世界にひきこもりがちで、お友達は陽毬ちゃんしかいなかった。
「すみれ、そら。よかったら協力してくれないかな?」
私に必要なのはきっと経験だ。
想像や妄想はたくさんできるけど、きっと経験から得られる気持ちはあまり持っていない。
すみれとそらなら、むかしからよく知っている家族のようなものだし、今は運よく男の子の姿だ。
なにかおしゃべりしている中で、小説のネタになるような胸キュンなことが思いつくかもしれない…!
「桃花の頼みならもちろんっ!」
「こいつを頼るくらいなら、俺を頼ったほうがいいな」
「ありがとう!ふたりとも!」
すみれとゆきは快く承諾してくれた。
あとでゆきにも相談してみるとして、まずはどんなことをしたらいいのかな…?
「とにかく、キュンってする気持ちが知りたいです…!」
そのためには、よく少女漫画とかで見る、ベタなやつを経験してみるのもありかも!
「例えば、曲がり角でぶつかるとか、壁ドンとか……」
私の説明に、二人は不思議そうに首をかしげる。
「そんなんでキュンとするのか?」
「わからない、けど……。ものは試しで!」
こういうのはてっぱんなわけだし、経験しておいて損はないはず……!



