『私が小説家になりたいって話をしたとき、桃花、少し困ったような顔してたから。私ばっかり夢語っちゃって、うるさかったかなーって』
「うるさくなんて…!」
『うん!わかってる!桃花は桃花のペースで自分の夢を決めたんだ。これからも自分のペースで夢に向かっていったらいいよ!』
「うん!ありがとう」
陽毬ちゃんはなにも変わらない。
ずっとまっすぐで明るくて、かっこいいんだ。
「そ、それでね!さっそくお話を書いてみたいんだけど、小説ってどうやって書いたらいいのかな?」
陽毬ちゃんは賞を取ってからももちろん書き続けている。
物語を書くには、まずなにからしたらいいんだろう?
『そうだね、まずは物語のテーマとか、書きたいことを考えるのはどう?』
「書きたいこと?」
『例えば、ドラゴンと少女の絆を描いたファンタジーを書きたい、って書きたいものを決める。そのあとで、登場人物とかこんなエピソードがいいなぁとかいろいろふくらませていく感じ!』
「なるほど……」
『まぁとりあえず、好きなように書いてみたらいいよ!自分の好きを書くのが一番!』
自分の好きを……。
「うん!ありがとう、陽毬ちゃん!さっそく書いてみるよ!」
『書けたら私にも読ませてよねっ』
「うん!」
陽毬ちゃんとの電話を切って、私はスマホを机の上に置く。
ふう、と一息ついていると、温かな手がまた私の頭を乱暴になでる。
「わわっ」
見上げると、すみれが目を細めて嬉しそうに笑っていた。
「ちゃんと伝えられたな」
「う、うん」
「桃花にしては偉い」
「私にしては、は余計じゃないかな?」
ははっと笑うすみれの表情が、あまりに素敵で私は一瞬見惚れてしまった。
「よし!ひとまず書きたいことをわーっとノートに書いてみるね!」
そうして私は、すみれとゆきが見守る中、小説家への第一歩を歩み始めた。



