前世での幼なじみ

〇 学校・教室(朝) 柱
まりなは机に肘をつき、ぼんやりと窓の外を見つめていた。
「前世の記憶」
最近、その言葉ばかりが頭をよぎる。 ト書き
(あの夢……祐介の態度……やっぱり、前世で何かあったのかな)
考えれば考えるほど、祐介と今の自分がどこかで深く繋がっている気がしてならない。
しかし、そんなまりなの迷いとは裏腹に、祐介は距離を取ろうとしていた。
昨日も今日も、目が合った瞬間にそらされる。 ト書き
(もう私と話したくないのかな……)
沈んだ気持ちで窓の外を見ていると、不意に端帆が声をかけてきた。
端帆「お前、また暗い顔してんな」 セリフ
まりな「……端帆」 セリフ
端帆「どうせ祐介のことだろ?」 セリフ
まりな「……」 セリフ
図星を突かれ、まりなは何も言えなくなる。
端帆「お前さ、そんなに前世の記憶って気になる?」 セリフ
まりな「……うん。なんか、私たち……前世でも幼なじみだった気がするの」 セリフ
端帆「ほーん、じゃあその頃はどうだったんだ?」 セリフ
まりな「……それが、よく分かんないんだよね」 セリフ
少し考え込むまりな。
まりな「でも、一つだけ思い出したの。……前世の祐介は、私を拒絶した」 セリフ
端帆「拒絶?」 セリフ
まりな「うん。今の祐介と同じように、何かを隠して……私のことを突き放した」 セリフ
自分で口にして、まりなの胸が痛くなる。
(もし、前世で何かあったとしても……また同じ道を辿るの?)
まりなは机の上でぎゅっと手を握りしめた。 ト書き
〇 学校・廊下(昼) 柱
一方、祐介もまた、まりなの言葉が頭から離れずにいた。
「前世でもあなたは私を拒絶した」
(なんだよ、それ……)
そんなこと、知るはずがないのに。
でも——。
祐介「……っ」 セリフ
昨夜、また夢を見た。
それは、今まで見たこともないのに、なぜか知っている記憶。
泣きそうな顔をしたまりなが、「私を忘れないで」と言っている。
彼女の声が、やけにリアルに響く。
胸が締め付けられる感覚が残っていた。
まるで——本当に、前世でそんなことがあったかのように。 ト書き
(これは、なんなんだよ……)
祐介は大きく息を吐き出し、頭を振った。
〇 学校・校門前(放課後) 柱
まりなは、思い切って祐介を呼び止めた。
まりな「祐介、話があるの」 セリフ
祐介は一瞬だけ迷ったように見えたが、結局ため息をついて振り返る。
祐介「……なんだよ」 セリフ
まりな「……やっぱり、信じてくれないよね。前世のこと」 セリフ
祐介「当たり前だろ」 セリフ
冷たい返事に、まりなは少し俯いた。
まりな「でも……本当にあった気がするの。私たち、前世でもこうやって向き合ってた……」 セリフ
祐介「証拠は?」 セリフ
まりな「……夢で見た」 セリフ
祐介「それだけで信じろってのか?」 セリフ
祐介は苛立たしげに言い捨てる。
祐介「……いい加減、そういうのやめろよ。くだらねぇ」 セリフ
まりな「くだらない、か……」 セリフ
まりなは力なく笑う。
たしかに、普通なら信じられない話かもしれない。
でも——まりなには確信があった。 ト書き
まりな「……なら、どうして昨日、私を助けてくれたの?」 セリフ
祐介「っ……!」 セリフ
祐介の表情が一瞬だけ動揺する。
まりな「私が駅の階段で転びそうになったとき……あなた、迷いもせずに私を抱き寄せたよね?」 セリフ
まりなはじっと祐介を見つめる。
まりな「それって、もしかして——前世の記憶が、無意識に残ってたからじゃない?」 セリフ
祐介「……」 セリフ
まりな「あなたは前世でも、私を守ろうとしてくれた。でも何かがあって……それができなかった」 セリフ
まりなの言葉に、祐介は拳を強く握りしめる。
祐介「……んなわけねぇだろ」 セリフ
まりな「本当にそう思う?」 セリフ
まりなの瞳には迷いがなかった。
祐介は何も言えなくなる。
まりなを振り切るように、彼は乱暴に背を向けた。 ト書き
祐介「……帰れよ」 セリフ
まりな「祐介……!」 セリフ
祐介「俺は、そんな話に付き合う気はねぇ!」 セリフ
まりなの手が、祐介に伸びかける。
だが——そのまま、彼は去っていった。
まりなは唇を噛み締める。 ト書き
(やっぱり、拒絶される……)
でも、ただの夢なんかじゃない。
この感覚は、本当に——。 ト書き
〇 祐介の部屋(夜) 柱
祐介は布団の中で、目を閉じていた。
脳裏に焼き付いて離れない、まりなの言葉。
「あなた、約束したよね?」
「前世でも、私を拒絶した」
そして——
「私を忘れないで」
祐介「……っ」 セリフ
ふいに、暗闇の中で祐介の目が開かれる。
鼓動がやけに速い。
(なんだ……この夢……?)
何度も思い出すたびに、胸が痛くなる。
(……もし、本当に前世があったとしたら——)
(俺は……何を忘れてるんだ?)
静かな夜の中、祐介の心臓の鼓動だけが鳴っていた。 ト書き
——次話へ続く——