前世での幼なじみ

〇 駅・階段(夜) 柱
駅の階段で、まりなは祐介の腕の中に収まっていた。
彼の声はいつもの冷たい調子とは違い、焦りが滲んでいた。 ト書き
祐介「危ねぇっての……気をつけろよ」 セリフ
まりなは固まったまま、祐介を見上げる。
彼はまりなを引き寄せたまま、その場から動こうとしなかった。 ト書き
(……なんで?)
たかが階段でつまずいただけなのに。
こんなに強く抱き寄せられるほどのことじゃないはずなのに——。 ト書き
まりな「……ごめん、ありがとう」 セリフ
まりながそっと呟くと、祐介はハッとしたように手を離す。
祐介「あ、ああ……」 セリフ
気まずそうに視線をそらし、ポケットに手を突っ込む。
祐介「……じゃあな」 セリフ
そう言い残し、祐介は早足で駅のホームへ向かっていった。
まりなは心臓の鼓動が収まらないまま、彼の背中を見送る。 ト書き
(祐介……やっぱり、何か……)
確信はない。
けれど、彼の態度が少しずつ変わってきている気がした。 ト書き
〇 学校・廊下(朝) 柱
まりなは今日こそ祐介に前世の記憶について話してみようと決意する。
(このままじゃ、気になって仕方ないもん……)
しかし、いざ祐介に近づこうとした瞬間——
端帆「おい、まりな!」 セリフ
突然、陽気な声とともに肩を叩かれる。
まりな「うわっ!? び、びっくりした……!」 セリフ
端帆「なんだよ、そんなビビんなって!」 セリフ
ニヤニヤと笑う端帆。
端帆「で? 昨日はどうだったんだよ」 セリフ
まりな「……え? 何が?」 セリフ
端帆「お前さ、祐介といい感じじゃね?」 セリフ
まりな「!!?」 セリフ
まりなの顔が一気に真っ赤になる。
まりな「ち、違うってば!!」 セリフ
端帆「いやいや、あいつ、昨日の帰り道、なんかずっと難しい顔してたぞ? お前のこと考えてたんじゃね?」 セリフ
まりな「そ、そんなわけ……」 セリフ
(……ないよね?)
でも、昨日の祐介の様子を思い出すと、まりなはどうしても違うと言い切れなかった。 ト書き
そんなまりなの表情を見て、端帆はますます面白がるように言う。
端帆「まぁまぁ、悩むより楽しんだ方がいいぜ。もしかして——お前、祐介のこと好きなんじゃね?」 セリフ
まりな「!!」 セリフ
まりなの頭が真っ白になる。
まりな「す、好き……!?」 セリフ
端帆「おーおー、動揺してる動揺してる」 セリフ
まりな「ち、ちがっ……」 セリフ
(……いや、違うの?)
まりなは急に胸がドキドキしてくるのを感じた。 ト書き
〇 教室(昼休み) 柱
窓の外を眺める祐介。
彼の頭の中には、昨夜の出来事が渦巻いていた。 ト書き
(昨日……俺、なんであんな……)
駅でまりなを助けたときの感覚が、今も妙に残っている。
まりなの体温、鼓動、近すぎる距離——。 ト書き
(……俺、何やってんだよ)
気を紛らわそうと窓の外を見ていたその時——
麻紗子「村井」 セリフ
祐介は驚き、声の方を見る。
そこに立っていたのは、中山田麻紗子。
成績優秀で、落ち着いた雰囲気を持つクラスメイト。 ト書き
祐介「……!」 セリフ
麻紗子「最近、まりなとよく話してるみたいだけど……」 セリフ
祐介「……は?」 セリフ
麻紗子「何かあったの?」 セリフ
祐介は一瞬、答えに詰まる。
(……俺は、何かあったんだろうか)
考えたくなかったはずなのに、まりなのことが頭から離れない。
(まさか、俺……)
まりなのことが気になってる……? ト書き
〇 学校・中庭(放課後) 柱
まりなはついに、祐介を捕まえる。
まりな「祐介!」 セリフ
祐介「……お前、またかよ」 セリフ
まりな「話したいことがあるの」 セリフ
まりなの真剣な表情に、祐介は眉をひそめる。
祐介「……分かった。ついてこい」 セリフ
二人は学校の裏手にある静かな中庭へ向かう。
まりなは深呼吸し、意を決して口を開いた。 ト書き
まりな「私、最近……変な夢を見てるの」 セリフ
祐介「……夢?」 セリフ
まりな「あなたとそっくりな人がいて、私に言うの。“俺が絶対に守る”って……」 セリフ
祐介の表情がピクリと動く。
祐介「……それ、昨日も言ったな」 セリフ
まりな「うん。でも、ただの夢じゃない気がするの。まるで——前世の記憶みたいな……」 セリフ
その瞬間、祐介の目が鋭くなる。
祐介「ふざけんな」 セリフ
まりな「え……?」 セリフ
祐介「前世とか、そんなくだらねぇ話、俺にするな」 セリフ
祐介の声は強い拒絶を含んでいた。
祐介「お前、なんかおかしいぞ。夢のせいで変な妄想してんじゃねぇのか?」 セリフ
まりなの胸がズキンと痛む。
(そんな……)
祐介はそれ以上何も言わず、くるりと背を向ける。
祐介「……もう俺に関わるな」 セリフ
まりな「!!」 セリフ
まりなの足がすくむ。
祐介の言葉が、胸に深く突き刺さる。 ト書き
彼はまりなを残し、そのまま立ち去った。
まりなはその場に立ち尽くし、ただ呆然と彼の背中を見送る。 ト書き
(……どうして?)
心の奥が、ひどく痛んだ——。 ト書き
——次話へ続く——