翌日。
午後のレッスン室には、大音量の音楽と、床を踏み鳴らす靴音が絶え間なく響いていた。
今日も例によって、『Dais』の練習。
ファイナル準備期間ももうすぐ折り返し、ブラジル合宿に関しては残り僅かなので、今は本格的に振りを固める追い込み期なのだ。
日本に戻れば、今度は本格的にもう一曲『PARADE』の準備が始まる。
となると『Dais』の振り固めはここでの合宿中に終えるしかないというわけで、こういうふうに全員が同じ部屋に一日カンヅメにされる合同練習が増えていた。
だから当然、この場には遥風がいる。
「……」
鏡越しに、ちょうど今シンメの位置で踊る遥風の横顔をチラリと見る。
正直、昨夜の出来事にはいまだに現実味がないけれど──
身体の奥に残るずしりとした気だるさと、首元に残った跡だけが、あれは本当に起こったことなんだって突きつけてくる。
無理に体を動かせば、腰が痛む。
コンシーラーとファンデーションで隠したはずの首元の跡も、汗で少しずつ崩れてきたのか、鏡越しに赤みが浮かび始めていた。
……こういう証拠さえ残っていなければ、全部、夢だったことにできたのかな。
「Chitose! Your arms are sloppy!! Focus!!(千歳!お前アームスがだらしないぞ!! 集中しろ!!)」
大音量の音楽を突き破って、Mr.Dの叱咤が飛んできた。
……我ながら、今日のコンディションは信じられないほどひどい。
今日だけで何度名指しの注意をされたか、数えきれないほどだ。
いつもなら、どこで音を拾うか、視線をどこに向けるか、どんなシルエットが一番綺麗か──常に脳内でいくつもの思考が回り続けているはずなのに。
今日だけは、頭の中が不自然なくらい空っぽだった。
パフォーマンスのことはもちろん、これから遥風にどう接したらいいのかすら考えることができない。
だって、何度考えたところで──
結局、私は状況を悪くしてしまうだけなんだから。
