さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜




「……ごめん」



震える息と一緒に、名前を呼ぶ。固まって動かなかった腕を、ようやく彼の背中に回す。



「無理させて、ごめん……」



喉が詰まって、掠れる声。

遥風は答えなかった。代わりに、私の鎖骨に唇を押し当てて、ちゅ、と強く吸ってくる。


──痛い。


「っ、……」


じわ、と視界がぼやける。身体の痛みよりも、心臓を強く握り潰されているような感覚の方が、ずっと痛くて。

私はどうにか遥風を落ち着かせようと、震える手を伸ばした。


髪を撫でて、いつもみたいに名前を呼べば、戻ってきてくれるかもしれないと思って。

けど、その手は触れる寸前で──すぐに掴まれた。


「っ!」


両手を片手でまとめられ、頭上へ押し留められる。


乱れた前髪。その隙間から見下ろしてくる遥風の瞳は、確かに私へ向けられているはずなのに、私を見ていないみたいで。

まるでここで逃したら、二度と私が自分の元に戻ってこなくなる、とでも思ってるみたいだった。



「遥風」


消え入りそうな声で、名前だけを呼ぶ。


「……話そう」