「なぁ、千歳」
「っ……」
低い声が、思考を断ち切った。
視線を上げれば、遥風の顔がさっきよりも近い距離にある。
至近距離で漂う遥風の匂いが、今は息を詰まらせるほどに濃く感じられた。
「なんで?」
鋭い視線。
けれどその奥には、怒りとも悲しみともつかない色がぐちゃぐちゃになって滲んでいるような気がして──
ぎゅう、と心臓の奥が潰された。
…………ああ。
遥風にこの目をさせたのは、私なんだ。
遥風には、苦しまないでほしかったのに。
私なんかに縛られないで、笑っていて欲しかったのに。
──全部、この人を守りたかったからなのに。
喉が焼きつくように熱くなり、私の唇からこぼれ落ちたのは、言い訳でも、説明でもなく──
「…………ごめん」
消え入りそうなほど小さい、謝罪の言葉だけだった。
