トン。
音と共に、目の前に影が落ちる。
…………あ。
ぎこちなく顔を上げると、いつの間にかすぐそばに遥風が来ていて。
目の前にしゃがみ込み、私を部屋の隅に閉じ込めるように壁に腕をついていた。
ふわ、と濃くなる匂い。至近距離でぶつかる視線。
長い睫毛に縁取られた瞳の奥には、どこか濁ったような、仄暗い熱が揺れていて──
「なぁ、千歳」
押し殺すような、低い声。
「翔とキスしてただろ」
────え?
数秒間、頭が真っ白になる。
脳が状況を理解するのを、拒んでいた。
けれど、至近距離から突き刺さる遥風の視線に逃げ道を塞がれ、だんだんとその意味が染み込んできて──
『遥風に、キスを見られていた』
そこまで辿り着いた瞬間、全身の血がさあっと足元へ落ちていった。
…………なんで。
その三文字だけが脳内を支配して、上手い言い訳も、宥めるための言葉も、何一つ浮かんでこなくて。
目を伏せ黙り込む私から、遥風は視線を逸らした。
ふ、と自嘲気味に唇を歪めて、吐き捨てるように言う。
