「……傷をそのまま他人に話したら、痛みが余計に生々しくなる人間だっている」
俯いた視界に、翔の黒い靴先が映り込む。
そして一歩、こちらに距離を詰められた。
「言葉にすることで、自分の傷がどんな形をしてるのか、いやでも分かるようになるだろ」
その言葉に、思いっきり頬を引っ叩かれたような感覚がした。
目を見開いて固まる私に、頭上から落ちてくる声。
「誰かに説明するために、思い出して、整理して──これは本当に起きたことなんだ、って自分でもう一度認めなきゃいけなくなる。それで余計に辛くなる人間だっているんだ」
何も、言い返せなかった。
──私も、言われてみれば、そういう感覚に心当たりはある。
辛いことがあった時、それを誰かに話して言葉にしてしまったら、今まで曖昧にしていたことが、取り返しのつかない事実として確定してしまうような気がして。
口に出すのを避けていることが、けっこうあった。
思い出したくない、形にしたくない、輪郭をぼかしたままにしておきたい。
そういうときに、誰かに辛いことを話すってことは、起きたことを最初から辿り直して、痛みを追体験することと同じなんだ。
……なのに。
どうして私は他人のことになると、『聞いてもらったほうが楽になるはず』なんて決めつけて、踏み込んでしまうんだろう。
だって、それって相手を楽にするどころか、むしろ──
「治りかけのかさぶたを、無理やりこじ開けるようなものだよ」
翔の声が、静かに落ちた。
