「千歳」
背後から、硬く低い声。
振り向くと、そこに立っていたのは──
天鷲翔だった。
いつもはセットしてあることの多い前髪が、シャワー上がりなのかさらりと自然に落ちている。
そのラフな格好だけ見れば、いつもより少し柔らかい印象に見えてもおかしくないはずなのに。
翔がこちらを見据える眼差しはやけに鋭くて、私はちょっと息を呑んだ。
……なんだろう。
明らかに、ピリついてるような。
「何してんの」
「何も?」
低い声音で尋ねられ、軽く肩をすくめてみせる京。
「ちょっと話してただけ」
翔はそんな彼を前に、しばらく不機嫌そうな視線を向け続けていたけれど──
やがて、苛立ちを吐き出すように短く息を吐いた。
「まあいいや。千歳借りていい?」
「え?」
思わず目を瞬かせる私。
き、急になんでこのタイミングで?この雰囲気を見るに、またお叱りっぽいけど……!!
すぐに、ふっと視線をこちらに流してくる翔。それを受け、内心ビクついて目を泳がせる私。
京はというと、窓枠に肘をかけたまましばらくそんな私たちを見つめていたけれど──
やがて何がおかしいのか、ちょっと口元を歪めて笑うと。
「……どーぞ?」
意外にもすんなりと、私を翔へ引き渡した。
え、ちょ、ちょっと待って。
私が怖がってるの分かってるんだったら、助け舟出してよ……!!
心の中で猛抗議する私をよそに、ガタッ、と無慈悲に閉められる窓。
そしてそれを横目で確認した翔が、すぐに私に声をかけた。
「じゃあとりあえず、こっち来て」
「……え、」
気づいた時には腕を掴まれ、グイッと引っ張られていて。
そのまま連れて行かれたのは、寮の入り口に続く通路を挟んで反対側にある、人目につかない暗い茂みの方だった。
