やめよう。もう帰ろう。せっかく寮に帰ってきて、ここからは待ちに待ったリラックスタイムだと思っていたのに、この男と話していたらさらにペースを乱されるだけだ。
そう考えた私が、さっさと踵を返そうとしたそのタイミングで。
京は、「あ」とふと思いついたように口を開いた。
「そーいや、千歳の部屋着が良いって噂聞いたよ」
「?!」
思いもよらないトピックを出してこられ、私は足を止めざるを得なかった。
私の部屋着が……?そんな変な噂を流されたら、女バレしていないメンバーにいらぬ誤解を与えかねないじゃないか。
「それ、誰が……?」
情報源を探ろうと、恐る恐る聞いてみる。とはいえ、合宿に来てからの私の部屋着姿を知っている人といったら限られてるよね。
まあ、多分犯人は遥風とかだろうけど……
そんなことを思いながら、ペットボトルの水に口をつけたその瞬間。
「椎木篤彦」
「っ?!」
危うく、水を吹き出しかけた。
ごほ、と変なところに入りかけた水を飲み込んで、その名前を復唱する。
「椎木篤彦」
「うん」
……嘘でしょ。
あの人、私のこと視界に入れてたの?
どれだけこっちが警戒していても全くもって視線をこちらに寄越さないから、完全に空気扱いされているものだと思っていたのに。
こんなちんちくりん興味ないですよー、みたいなオーラを出しといて、ちゃっかり見て、さらには上から目線で評価してきてるのは一体どういうこと?
