口笛、拍手、笑い声が飛び交う輪の中で、私は一人、死んだ目になっていた。
治安、終わってるって……。
「Come on, girl!(カモン、ガール!)」
目の前の彼は、顎をクイッとしゃくって、真正面から挑発してきた。
やれるものならやってみろ、と言わんばかりの態度。ギャラリーの熱視線が、一気に私へと集中する。
……どうにか乗り切るしかないよね。
私は覚悟を決めるように短く息を吐くと、ふっと目を閉じた。
視界を遮断して、流れる音にだけ意識を集中させながら、考える。
この人に、真正面からヒップホップで挑んでも到底勝てる気はしなかった。
だって、積み重ねてきた時間とスキルに圧倒的な差があって、付け焼き刃の私の技術でそれを埋められるはずがないから。
──だとしたら。
私に残された道は、一つしかないも同然だった。
昨日、椎木篤彦が言っていた『必勝法』。
何があっても使うことはないと思っていたけれど──
この文脈なら、むしろ彼の踊りに対する強いアンサーになるだろうし、試してみる価値はある。
そう考えた私は、目深に被っていたパーカーのフードを、バサッと乱暴に脱ぎ捨てた。
