「あ……」
思わず、小さく声が漏れる。
遥風の方は、既にこちらに気づいていて、驚いたように固まってこちらを見ていた。
……やばい。
さぁっ、と全身から血の気が引いた。
「違、」
思わずそんな言葉が喉から出たけれど、ガラス越しの遥風に聞こえるはずもなく。
彼は次の瞬間、酷く冷めた顔でふいと視線を逸らし、そのまま何もなかったみたいに歩き去ってしまった。
「……っ」
胸の奥が、ずきりと痛む。
朝の挨拶を無視された時よりも、はっきりと。
……何やってるんだ、私。
違うって、何が違うんだ。
遥風を遠ざけて、他の人には簡単に触らせて──
何も違わない。最低なことをしているのに変わりはないじゃないか。
思わず泣きそうな顔になって、それを誤魔化すように口をぎゅっとつぐんでしまう。
すると、さっきまで頭を拭いていた翔の手が、ふっと止まった。
「そんなに気になる?遥風のこと」
その言葉に思わず顔を上げると、彼の視線は私ではなく、さっきまで遥風が立っていたコモンルームの方に向いていた。
私の視線の先を、ずっと見ていたらしい。
「……別に」
小さくそれだけ返すと、翔は濡れた前髪の奥で目を細め、呆れたように小さくため息を吐いた。
「自分で壁作ってるくせに、いざ距離が離れたら嫌なの?変だね」
その鋭い言葉に、思わず息が詰まった。
……そうだよね。彼の言ってることは、何一つ間違っていない。
どちらかというと遥風を拒絶して傷つけているのは私の方なのに、どうして私が被害者みたいに傷ついているんだろう。
あまりの自分勝手さに我ながら嫌気がさして、私は地面の一点を見つめて俯くしかなかった。
