「ストップ」
背後から、すぐさま声が飛んできた。
「そんなずぶ濡れで入ろうとしない」
え、と振り返ったのとほとんど同時に、視界がバサッと真っ暗になる。
おそらく大きめのタオルか何かを、私の頭に被せてきたのだ。
ふわ、と柔軟剤か何かのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「わ、」
戸惑った次の瞬間には、タオル越しに両手で頭を掴まれていて。
そのまま、わしゃわしゃと乱暴な手つきで髪を拭き始められた。
「ちょ、ちょっと……!」
完全に、雨の中を走り回ってきた犬か猫かに対する扱いである。
頭を揺らされるたびに身体までふらふら動いて、髪も容赦なくぐしゃぐしゃになっていく。
湿気のせいか彼の匂いがいつもより近く、甘く感じられて、胸の奥が妙に落ち着かない。
……っていうか、これって、スキンシップなのでは?
タオル越しだからセーフ?いや、多分そういう問題ではない。
これを許したら一気に秩序がなくなる。きちんとここは一線を引かなければ。
そう思った私は、濡れた前髪の隙間から翔を見上げて口を開く。
「あの、自分で……」
「いいから」
ぴしゃり。
秒で遮られ、私はその威圧感に思わず何も言えなくなった。
いや、翔が良くても、こっちがダメなんだけど……。
なんて、そんな内心で文句をぶつぶつ垂れつつ、なんて言って逃げ出そうか必死に考えていた──
その時だった。
窓の向こう、コモンルームに、見慣れた人影がよぎった。
ドクン、と心臓が跳ねる。
遥風だ。
