「はぁ、何これ……」
ぜぇぜぇと息切れしながら、激しい雨空を恨めしく睨んでしまう私。
その隣で、翔も濡れた前髪を無造作にかき上げながら、軽くため息を吐く。
「おかしいな。俺、だいぶ晴れ男なんだけど……」
そこで言葉を切り、ふっとこちらを見下ろす翔。
ずぶ濡れになった私を前に、目を細めて、微かに口元を緩めた。
「さすが」
……
…………
………………ん?
笑った????
一瞬目の前の光景が信じられなくて、思考回路が落ちてしまった。
笑った、よね、今。
私を見て。
いつもは不機嫌そうにこちらを見るか、そもそも見ないかの二択なのに。
一瞬だけ見せた笑顔は、思ったよりも年相応で、いつもの近寄りがたい雰囲気が嘘みたいに薄れて見えた。
わ、笑うんですね……。
……なんて、そんな馬鹿正直な感想を漏らすわけにはいかない。
私は一瞬だけ跳ねた心臓を誤魔化すように、少し眉根を寄せ、軽口に乗っかる形でつっけんどんに返してみる。
「……どういう意味ですか」
「お前に負けるとは」
「嬉しくないんですけど」
冗談を言い合えている。空気は悪くない。
むしろあの天鷲翔と話しているとは思えないくらい、自然に会話が続いている。
──けれど、だからと言って安心できるわけでは全くない。
だって私は今、見事なまでのずぶ濡れ状態だ。雨をたっぷり吸ったTシャツは肌に張り付いて、普段誤魔化している身体の線がうっすら浮かび上がりかけていた。
正体がバレていない翔相手にこの状態で近くにいるのは、いくらなんでも危うすぎる。
そう思った私は、「じゃ、俺は行くので」と荷物片手に中に入ろうとした──
のだけれど。
